第二章 2-3


 魔力とは純粋な力であり、それ単体では固着化することが出来ず、無限に拡散していってしまうものである。魔力自体は古来より普遍的に存在していたが、かつての人にはそれを利用する術がなかった。


 しかし、天人よりもたらされた技術がそれを可能とした。魔力を帯びさせた物質……すなわちマイナを介することで、一定量の魔力を凝集し、指向性を持たせることに成功した。マイナは魔力の貯蔵体であると同時に、伝導体の役割をも果たしているのだ。


 では、マイナとは一体何なのか。実は原初のマイナ、正確にひょうすればマイナの先駆物質に当たるものには魔力は宿っていない。


 マイナをマイナ足らしめるもの、それは魔力を出入力させるための門口かどぐちとなる因子であり、属性の決定にも密接に関わっているとされている。


 また、余談にはなるが、不活化したマイナが時間とともに再び活性化するのは、その因子を経由して大気中の魔力を吸収することによるものだと考えられている。


「魔法の効果がいなという結果に対して、その原因には次のものが挙げられます。発動が不完全であった場合、防性魔法や対魔装備により妨げられた場合、対象者の心身の耐性が勝った場合、効果後に解法された場合、そして効果時間が経過した場合です。しかし、先ほどの現象はそのいずれとも異なっておりました」


 もし仮にマイナから因子が除去された場合、そこに宿っていた魔力は霧散し、魔法も消え去ってしまうと推定される。先ほど皇女は彼女に傾国傾城ポイズン・チャームの魔法を行使していたようだが、途中で正気を取り戻したのはそのためなのかも知れない。


 しかし、この力の真髄はもっと別のところにあるという。それは因子を除去されたマイナは不可逆的に機能を失い、二度と魔法の行使にきょうすることが出来なくなってしまうことだ。


 もっとも、世界はマイナで溢れ返っているため、一人の力ではしたる影響も与えることはないだろう。


 或いは、この力が後世に伝わらなかったのはそれが原因なのかも知れない。この力を使えば使うほど、術者が増えれば増えるほど、世界からはマイナが失われ、魔法は過去へと消えていく。それは現在の文明を破壊する行為に他ならない。


 そのとき、彼女は朧気おぼろげながらも気付いてしまった。自分はずっと、マイナに嫌われていると思っていた。だから魔法が使えないのだと諦めてもいた。


 でも、きっとそこには思い違いがあったのだ。マイナは自分を嫌っていたのではなく……恐れていたのだ。


「爺は妾の魔法の師であり、長年にわたって空属性くうぞくせいを研究しておる変わり者でな。必ずや、ニー様の力となってくれるじゃろう」


 古より伝説の片隅に埋もれていた力が、なぜ自分に宿っているかは分からない。もしかすると、これがミストリアの言っていた本当の強さなのかも知れない。


 今すぐにでも逢いたかった。でも、それだけでは駄目なのだ。また一緒に旅がしたい、今度こそ守られてばかりでなく、隣に並んで戦える自分でいたい。この力があれば、その願いは叶うだろうか。


 いや、叶えるのだ。数多の当主がきびすを返したその場所から、自分自身もたもとを分かったこの場所から、もう一度だけ歩き出そう。神でもなく、星でもなく、今度こそ人として向き合うために……。

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