第二章 是空

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 最初の百年は憎しみだった。自分の全てを奪った存在に、会稽かいけいを遂げる誕生を切望した。


 次の百年は悲しみだった。未だ生まれいでぬ再来に、儚く散りゆく命に憐憫れんびんした。


 三度みたびの百年は慈しみだった。育まれる命の鼓動に、遷りゆく時の流れに転成した。


 先度せんどの百年はあぐみだった。不変たる時の繰り返しに、希薄化する遺志に退廃した。


 そして、此度こたびの百年で決意した。嘆きは過去に、姫は地に、無窮むきゅうはこれで御仕舞に。


 あなたが生まれたのはそんなときだった。なぜ、望んだときには来ず、望まなくなったときには来てしまうのか。私は運命を呪った。


 しかし、万世ばんせいにこの身を捧げた星霜せいそうが、怨嗟えんさの波間で庇護した温もりが、私を変質させていた。私は運命をあざむいた。


 あなたを縛り続ければ良かったのか、あなたに信じて貰えれば良かったのか、或いはあなたと二人で誰も知らない地に逃げ出せば良かったのか、私にはもう分からない。


 全ては私の手の平から溢れ落ち、もうすくうことは出来なくなってしまっていた。


 それでも良かった、私はあなたを救えるのならそれでも良かった。


 でも、それはもう無理なのだ。あなたはきっと来てしまう。そして、私はあなたを失ってしまう。


 だって、もうさいは転がっていたのだから……。




第二章 是空

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