第一章 EXー1
-番外-
私は生まれつき身体が弱かった。幼少期には外に出ることも叶わず、日がな一日、自室の寝台に
王国随一の名医にも診てもらったが、原因は
私の家系はホーリーデイという貴族であり、大陸でも有数の女系の一族であった。長女である私には二つ歳下の妹がおり、私がこのような状態であったことから、次期当主には妹が相応しいと目されていた。他ならぬ私自身もそう考えていた。
私の一族にはある特殊な役目があった。それは
現在では既に天人は御隠れになって久しく、地姫もまた次第に廃れていった。しかし、唯一少女だけがその血脈を保ち続けており、いつしか天人と地姫の習合として天人地姫と尊称されるようになった。
少女は人でいう成人の頃になると、かつて天人が降臨したとされる霊峰タカチホに旅立ち、そして次代となる娘を産んだ後、神々の世界へ還るという。その娘の地上における
しかし、所詮は私には関わりのないことだと思っていた。当主を継ぐのは妹であり、次代の天人地姫と同世代となる娘を産むのも、
私が初めて少女と出会ったのは五歳の誕生日を迎えたときだった。その頃の私はまだ
自室で催された
少女はこれから一緒に暮らすのだという。以前にもそのようなことを母様から聞かされていたが、いつになるかは正確には分からないため、今まですっかり忘れてしまっていた。
それから毎日、少女と二人きりで時を過ごした。少女はとても物知りで、私が知らない外の世界のことをたくさん知っており、ずっと話していても一向に飽きることがなかった。少女には専用の部屋が設けられてはいたが、殆どは私と一緒の寝台で夜を明かしていたほどである。
一見すると、病弱な貴族の娘のために、
一方で、母様が少女に向ける眼差しはどこか懐かしそうな、優しさと慈しみに満ち溢れており、不思議と胸が締め付けられるような感覚を抱いていた。
少女と共に過ごすことで、私の身体も少しずつ調子が上向いていき、行動範囲も自室から室外へと広がっていった。しかし、依然として外出することには抵抗があり、両親に付いて王宮や他の貴族の邸宅などに赴くことは出来なかった。
そして、私が七歳になった頃、父様からあることを提案された。それはこれから少女と過ごす時間を、少しずつ妹にも分けてほしいというものであった。
当時の私にも、それが何を意味するのかは分かっていた。次期当主である妹と天人地姫である少女が、
それはとても残酷な宣告であったが、いつかは訪れることも覚悟していた。当主として家督を継げないのであれば、次代の天人地姫を育てることも出来ない。むしろ、両親は辛抱強く私の成長を見守ってくれていたのだと思う。
後に聞いたところでは、父方の実家であるソガ家に身を寄せるという話もあったそうだ。領都ソガリはヌーナ大陸で唯一、西方大陸ロディニアと交易を結ぶ港湾都市である。
西方から
少女と妹が親密になることは、少女とその娘のためにも、
しかし、私がそれに耐えられるかどうかは疑問であった。そんな光景を見せ付けられるくらいなら、
もしも妹の方が先に生まれていれば、或いは私が生まれてこなければ、少女と妹は良き関係を育み、天人地姫とホーリーデイ家に相応しき間柄となっていたことだろう。それを奪ってしまったのは、他ならぬ私自身なのだ。私は妹に、少女を返さなくてはならないのだ。
それはとても淋しく、そして辛いことだ。少女と共に過ごした日々は私に輝きを与えてくれた。退屈で詰まらない
それでも承諾せねばならない。私は次期当主でなくともホーリーデイ家の女なのだ。祖先から綿々と受け継がれた宿命を背負っているのだ。
そのとき、私の中にほんの僅かに、自身がホーリーデイ家の一員であるという自覚が芽生えた。そして、締め切った部屋に力強く開いた扉から、荒々しくも優しく吹き込んだ風がそっと私を包み込んでくれた。
「それは
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