第一章 6-1
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「我が帝国に御身を
ハナラカシア王国がキノ領にイシツイジ要塞を構えるように、シュウシンカン帝国にもシュンプ平野を挟んだ先に、その建造物は
リンシ要塞、帝国の南部方面軍を統括する軍事拠点である。規模は王国の
かつては、王国による
しかし、辺境の異民族が
帝国の威容が顕在化した荘厳な巨壁、そして一糸乱れず整列する大隊規模の親衛隊を背景として、薄手の絹装束に身を包んだ貴人が優雅に一礼する。
今回は
途端に一年前の記憶が蘇り、彼女の背筋には冷や汗が伝う。また、先の
「七日後、帝都で
本来であれば皇族が案内役を務めるなど、
「
帝国の南端から帝都カンヨウまで、現在の進行状況では二ヶ月を要すると見込んでいた。それを七日後に挙行するということは、即ち馬車での移動を前提としていることになる。
つまりは、いつぞやのように
しかしながら、その返答は皇女には承諾できぬようで、露骨に美麗な尊顔を歪ませている。それも無理からぬことではあろう。皇帝の勅命を受けた以上、独断で
互いの使命と矜持の狭間で、
「ニー様、次にお逢いしたときはサニーと呼ぶと約束したではありませんか。
……どうやら、先ほどまでの睨み合いは思い違いであったようだ。
まるで
「貴殿も異なことを申される。あれほど我が国への礼を失すると、恐縮していたのはそなたではないか」
それは半ば想定済みの問答であった。ホーリーデイ家は天人地姫の庇護者であると同時に、その意思を本人に代わり伝える代弁者でもある。故に、弁が立つこともまた必須の素養であった。
「その折は王国の使者を仰せつかっておりました。此度は天人地姫の
全くの正論であった。ヌーナ大陸において天人地姫に干渉できる者などいない。
しかし、必ずしも正論が
「
皇女は片手で部下たちを制すと、伏し目がちに反省の言を述べる。その殊勝な態度に少し言い過ぎてしまったかと気を揉むが、次の瞬間には、皇女は顔を上げて
「しかし、妾とて陛下より大任を仰せつかった身……
それは同行の宣言であった。皇女の
皇女の突然の申し出に兵士たちも動揺を隠せずにいたが、当の本人は至って平然に、むしろ勝ち誇ったような表情で彼女たちのもとへと歩み寄ってきた。
「二人とも仲が
荒野から運ばれる熱風に反し、冷淡な言葉が二人を凍り付かせた。先ほどから沈黙を守っていたミストリアが、あっさりと乗車を受け入れたのである。
「どうせ施しはもう済ませたのでしょう?」
ミストリアの射抜くような視線を皇女がさらりと受け流す。王国や教国と違い、帝国にとって天人地姫による
それは自国の難題、臣民の救済を他者に委ねることに他ならない。故に、御幸を前に民衆の不平不満を解消し、困窮者に救いの手を差し伸べることが慣習となっていた。
そして、未だ要領を得ない彼女を押し込むようにして三人で御料車に乗り込むと、帝都への長い旅路に就いたのであった。
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