第一章 4-1
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「今日はいつもよりも星が綺麗だね」
恒星がその姿を隠した荒野で、
この荒野はシュンプ平野と呼ばれており、王都オハリダと帝都カンヨウを結ぶケイ街道の途上にある。両国の移動には避けて通れぬ地域であるが、いずれの領土にも属していないため、その整備は遅々として進まずにいた。
踏破にはおよそ一週間を要すると見込んでいるが、キノ家から提供された糧食のおかげで道中の不安は微々たるものであった。
二人は簡素な食事を済ませると、魔法による光源を消して水泡の地面に寝転び、肩が軽く触れるほど傍に並んで星空を眺めていた。
乾季にあたることもあり、今夜は雲ひとつない
彼女は隣に横たわるミストリアに目をやった。瞳に映る度に再認識させられる眩いばかりの輝きは、世界に対して身一つで渡り合える強さと美しさを兼ね備えており、まさに地上に光る星そのものだ。
その輝きがあればこそ、地上は
無論、歴史を顧みれば平和な時代ばかりではない。また、比較的安定したといわれる現代においても、陽の当たらぬ場所では多くの者たちが嘆き苦しみ、暴力と悲劇の連鎖は続いている。地上は欲と罪に塗れた地獄なのだと
しかし、
今は隣に居られることが堪らなく誇らしい。共に同じ時を過ごし、神である姿と人である姿の両方を知れたことが何よりも嬉しかった。いつまでもその輝きと共に在りたいと、それだけを願い続けてきた。
「ねえ、お母様との旅はどうだったの?」
いつしか、彼女はそのようなことを尋ねていた。ホーリーデイ家の現当主である母もまた、きっと同じ気持ちでこの光景を眺めていたのではないだろうか。
「さあ、一緒に旅をしたといっても王領を出るまでの短い間だったから」
それは初耳であった。母からは旅に出ることの心構えは聞かされても、肝心の中身までは知らされていない。それにしても、王領までとは些か短すぎるのではないだろうか。
「過去には旅をしなかった当主もいたけれど、そんなに早く終わるなんて前代未聞よね」
ミストリアが深い溜息とともに声を漏らす。確かに王領までとなると、今回の行程でも一週間ほどであった。しかし、あれほど聡明で芯の強い母が、理由もなく早期に断念するとは思えなかった。
そんな彼女の疑問を察したのだろう。ミストリアは
「もうそのときには、クラウディのお腹の中にはあなたがいたのよ」
クラウディとは、ミストリアが母に対して親しみを込めて呼ぶときのものである。おそらくは記憶の中の先代の天人地姫がそう呼んでいたのだろう。
しかし、まさか自分が原因だったとは、これでは母も言い出せない訳である。あの
それでも考えてしまう。いったい母ならどこまで旅を続けられていたのだろうか。歴代の当主の大半は王国を出ることも叶わなかったというが、そこはまさに彼女たちが立っている場所でもあった。
「いずれにせよ、この辺りまでだったでしょうね。いくら智力に秀でてはいても、こればかりはどうしようもないことよ」
そう淋しそうに笑う声を聞いて、彼女は胸の奥に痛みを感じていた。それはかつて母が抱いたものなのか、それともこの先で自分を待つものなのか……それは存外、唐突に訪れてしまうものなのかも知れない。
自然と会話は止まっていた。彼女には返す言葉は何もなく、ミストリアもまたそれ以上を語ろうとはしなかった。この空間の中では時間の流れを感じにくいが、もう
星の瞬きすらも聴こえてきそうな静寂の中で、やがて隣からは微かな寝息が響いてきた。この気持ちは何だろう。この愛おしくも狂おしく、喜ばしくも切なしき気持ちは、いったいどう表現すれば良いのだろうか。
『あの方と共にいることが怖くないのですか』
不意に、別れ際のオユミの言葉が脳裏を
いつか訪れてしまう別れのとき、それは本当に避けられぬものなのだろうか。その命題に未だ答えを見出だせぬまま、彼女は右手を天上に向けて高く掲げると、
星の
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