序章 5-1
-5-
「本日の良き日を迎えられましたことを、王国を代表してお慶び申し上げます」
悠久の時を経て地表へと吹き出した
ウィンダニア=ジン=ハナラカシア……現国王ヒコイツセの唯一の実子にして、王位継承権第一位の王女である。
触れれば
――今日、彼女は十八となり、晴れて成人の仲間入りを果たす。
屋敷で催された祝宴には各諸侯の子弟が集い、来賓を代表して王女から御言葉を賜ることと
本来であれば、王国を挙げて大々的に執り行うべきものなのであろう。
しかし、天人地姫の動向は秘匿されており、また王国の安全保障の観点からも公にすることは避けねばならないため、あくまでホーリーデイ家の私的行事という位置付けに収まっていた。
故に、国王の代理として王女の御臨席を賜ったわけだが、流石に
仮にも宴席の主役である彼女は、謝辞を述べるべく王女の見送りに向かった。
そんな彼女を認めて、王女は護衛には聴こえぬほどに小さく、しかし明瞭な澄んだ声で囁いてきた。
「まだ迷われているようですね。しかし、時とはいつまでも与えられるものではないのですよ」
瞬間、彼女の全身に鳥肌が立った。まるで心の
同時に、それが王女の胸の内を明かすものであることにも気付く。王国は絶対的長子相続制のため、女王の即位は既定路線だ。しかし、その伴侶となる
これまで敢えて比較されることはなかったが、彼女たちは驚くほど似た境遇にあった。しかし、彼女には王女と違い、まだ僅かながらも選択の余地が残されている。
真に天人地姫を想うのであれば、ミストリアとの別れを惜しむのであれば、ホーリーデイ家の嫡子として、現世の日々を共に過ごしてきた友として、取り得るべき道があった。
王女は彼女の意志を悟ったのか、柔らかな微笑みを浮かべて一礼すると、背を向けて出口へと歩み出す。しかし、優雅に見えるその仕草にもどこか哀愁を感じてしまうのは、既に王女が諦念の境地に達しているからなのかも知れない。
どんな言葉を掛ければ良いか分からなかった。いや、どんな言葉も掛けられない。ただ国家のためだけに生きる……幼少期よりそれを宿命付けられてきた王女に、いったいどんな言葉を語れるというのだろうか。
「私たちには……それでもまだ、きっとまだ出来ることがあるはずなんです」
時に、口は意思に反して
彼女であり、王女であり、そしてミストリアであり……、決まってしまったことに対して、子どもが駄々を
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