序章 3-3
「……レイネリア殿に褒美を与えては
ミストリアとの想い出に浸っていた彼女であったが、唐突に自分の名前が呼ばれたことに身体をピクリと反応させた。宴席の会話に耳を傾けてみると、どうやら話題の中心は彼女に移っているらしい。
「ねぇ、どういうこと?」
堪らず隣に座るオヒトへ助けを求める。先ほどまでミストリアに陶酔していたはずの彼は、もうすっかり元の状態に戻っており、呆れた表情を浮かべながら答えてくれた。
「だから、今日のミストリア様の御姿を見て、庇護者であるホーリーデイ家も称賛されているんだよ。レイニーにも皇帝陛下からご褒美があるらしいよ」
褒美と聞いて、彼女は少し複雑な表情を浮かべていた。庇護者といっても、ミストリアの力は生来のもので、別にホーリーデイ家が指南した訳ではない。演習で見せた障壁も幼少時には既に有しており、むしろ守られているのはホーリーデイ家と見る向きもある。
一方で、戦闘においては比類なき強さを誇るミストリアも、私生活においては意外と杜撰なところがあり、
「それは善きことかと。
「先の演習においては実に堂々たる
それに皇帝からの褒美とあらば、かなり
尤も、帝国では他大陸との交流を禁ずる鎖国政策が執られているため、今回はそれは期待できない。
彼女もまた女人らしく、その華やかな光景に目を細めていたのだが、
「では、レイネリア殿を帝都の学院に迎え入れてはどうでしょうか」
最初、彼女はその言葉の意味するところが分からず、訝しげな表情を浮かべていた。帝国の学院が何かは理解している。しかし、それは褒美などではなく、もっと別に……そう、相応しい言葉があるものではないか。
「それは名案ですな。帝都の学院であれば、レイネリア殿の聡明さにも拍車が掛かることでしょう」
「実に
まるで示し合わせていたかのように、帝国側から次々と賛意が述べられた。それはあまりにも露骨であり、
「レイネリア殿であれば、サナリエル皇女の良き学友となることだろう」
ホーリーデイ家は政治や軍事などの実態的な権力を持たない。しかし、天人地姫の庇護者として度々親善外交に用いられており、彼女もまた一度、母に同行して帝国に赴いたことがあった。
その折に、皇帝の娘であるサナリエル皇女と
とはいえ、自分が帝国に長期滞在することの意味が分からぬほど、彼女は幼稚でも凡庸でもない。
王国と帝国は同盟関係にあるが、先の軍事演習にも見られるように、それは決して盤石なものではなく、天人地姫を介した微妙な均衡の上に成り立っていた。帝都の学院に迎え入れると言えば聴こえは良いが、要は
流石にこの提案には、王国側からは反対の声が挙がった。特にオオトモ家のメイラ将軍は同性ということもあり、帝国における彼女の身の安全を強く案じていた。
また、彼女の父方の実家であるハジ家のノイテ将軍も、
王国の重鎮も彼女を失うことの意味をよく理解していたのだ。しかし、王国軍の指揮官であったモノノベ家のモリヤ将軍は、あろうことか賛意を示そうとした。
「皇帝陛下の御厚意を無下にするとは非礼の極みである。封禅の儀への配意を問うのであれば、タカチホへと
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