佳音と優恵のデート日和
綾乃姫音真
プロローグ
「寒っ」
身震いするような冷たい風に足が止まってしまう。上はブレザーに黒いコートを着ているからまだ耐えられるけれど、下はスカートにニーハイソックスのためものすごく寒い。主に太ももの剥き出し部分が。
「
名前を呼ばれて左隣に目を向ける。幼なじみの
「なに?」
意図せずぶっきらぼうな言葉になってしまった。そして私の視線の先にはお揃いのコートの上からでもハッキリとわかる膨らみがあった。ジッと見るのもどうかと、更に下を向いてしまう。スカートから伸びるタイツに包まれた肉付きの良い太ももが目に入った。……タイツ羨ましい、暖かそう。むしろ今朝の私は何故ニーハイソックスなんて選んだのか。冷え込むことは天気予報でわかっていたのに。
「明日って学校休みだけど、佳音って暇だったりするのかな?」
目を逸した件といい、優恵からすれば私は挙動不審でしかないだろうけれど、いつものことなのでスルーしてくれた。その優しさが心地よくもあり、申し訳なくもある。
「一応」
もうちょっと言葉を足せば印象も変わるだろうに、と思っていても実行できずにクラスで浮き気味の自分。
「そっかぁ、よかったー。実はお願いがあるんだけど……」
雰囲気が柔らかく男女問わずクラス内の中心に居る優恵。恐らく幼なじみという繋がりがなければ、こうやって一緒に下校するような関係になるなんてことは無かったんだろうなと思うと神様に感謝しかない。
「お願い? 珍しい」
「ちょっと、ね。この前、他のクラスの男子に告白されたんだけど……」
「2年生になって何回目? 羨ましい」
もっと言えば、中学時代からされていたみたいだけど、高校生になって増えた。私なんて1回もそんな経験ないのに。流石、優恵。
「あんまいいもんじゃないよ? 断るの面倒くさい」
そういえば、優恵は告白されても誰かと付き合ったことは1度も無いんだっけ。
「付き合えばいいのに」
「……わたし、好きな人居るし」
「そうなの?」
初耳情報にチラッと様子を窺うも、表情は普段と変わらなかった。
「って、それはいいの! 問題は、断った相手がストーカーしてくるのよ」
「うわ……」
「引くでしょ?」
「もしかして今も?」
振り返ろうとしてやめた。もし目が合ったら怖いし。
「ううん、休日、ひとりで買い物に行ったときとか」
「尚更怖い」
行動を把握されてるってことだよね、それ。
「そこで考えたんだけど、逆にデートしてるのを見せつけてやろうかなと」
「? 誰か男子に頼む?」
「いやいや、佳音にお願いがあるって言ったでしょ? 明日、偽装カップルとしてわたしとデートして」
「ええ!?」
自分でも想定外の大声が出てしまい、羞恥でカッと頬が熱くなる。
「わ、私、お、女だよ?」
ただでさえ喋るのが苦手なのに動揺で酷いことになってしまった。
「いっその事、女の子と付き合ってるって噂でも流れてくれれば告白もされなくなって楽かなって。そういう訳で明日はよろしくね♪」
いつの間にか、優恵の家に着いていたらしく、彼女は私の返事を待つことなくバイバイっと手を振って玄関へと消えていった。
「……」
私が我に返って隣にある自分の家に入ったのは10分後のことだった。
☆☆☆
夜。スマホに優恵からメッセージが届いていた。
『明日、水着持ってきて』
え、街から山に目を向けると上の方には雪が積もっているのがわかる時期なのに?
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