3つ目のチャンス
どうしたものか。
チャンスはまだ5つあると考えるべきか、もう5つしかないと考えるべきなのか。
いやいや、何を真面目に考えているんだ、俺は。どうでも良いはずじゃなかったのか。
俺には『先生』のほかに、もう一つトラウマがある。過去を変えることによって、それを克服することができるのだろうか?
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俺は、三度(みたび)過去の小学校へ飛んだ。今度は夜だ。
小学校は、俺の家に近いところにある。歩いて5分かかるかどうかという距離だ。
小学4年生の時に、この校舎は全焼している。夜中に起こされた俺は、親に外へ連れ出されたときに、空に向かって真っ赤に立ち上る炎を見た。空気が熱かった。地獄のような光景だった。
幸い延焼は免れたが、それ以来俺は火が苦手で、キャンプファイヤーのときも炎に近づけなかった。
もしあの火災を未然に防げれば、俺のトラウマは消えるだろうか?
俺は幽体になって、壁抜けで校内に入った。行き先は用務員室だ。念のため、俺は外観を50代にした。用務員にはこのぐらいの年齢の方が説教しやすいからだ。
用務員室がどこにあったか思い出せなくて、俺は少し迷った。そしたら、焦げ臭い匂いが立ち込めてきた。
おいおい、もう燃えているのかよ?ヤバいぞ、俺は近づけるのか?
あった。あそこが用務員室だ。俺は走っていって、ドアを開けた。
畳から少し火が上がっている!
「おい、起きろ!」俺は叫んだ。「火事だ!起きて早く消すんだ!」
それでも用務員は起きない。枕元に酒瓶と茶碗と灰皿が置いてあった。馬鹿野郎が、酔っ払って寝たばこしやがった。
俺は用務員を蹴飛ばして叩き起こした。
「消火器はないのか!?」
用務員は俺の問いには応えず、台所に行ってバケツに水を入れてきて火にかけた。それを3回ほど繰り返して、ようやく鎮火した。
「誰だ、あんたは?」用務員は俺に向かって言った。「さては、あんたが火をつけたな?」
「馬鹿を言うんじゃない!」俺は怒った。「焦げ臭いから来てみれば、飲酒に寝たばこか。俺が来なかったら、学校が全焼していたぞ!」
校務員は一瞬ひるんだが、「あんた、どこから入ってきたんだ?火消しに協力しなかったよな?自分で火をつけて、俺のせいにしようとしたんじゃないのか?」
ダメだこりゃ。人のせいにしようとしている。
「そう思うんだったら、警察と消防を呼べよ。現場検証してもらおうじゃねえか。どう見たって、お前の寝たばこが失火原因だろう」
失火場所が灰皿の近くで、たばこの吸い殻が焦げているのを見て、さすがに用務員も何も言えなくなってしまった。
まあいい。どうせこいつはクビになるだろう。それで校舎は燃えずに済む。
俺は用務員室を出て、賽の河原へ飛んだ。
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俺は違和感を感じていた。炎アレルギーが消えたような感じがしない。過去を変えても、トラウマは残るのだろうか?
「三つ目のチャンス。判定を行います」
死神は判定器のボタンを押した。あっさり『ブー』の音が鳴って『✕』印が出た。
「ちなみに」死神は言った。「用務員さんは、燃え跡の上に荷物を置いて隠していたんですが、後日また火災を起こしてしまいました」
あんのヤロ~!
「それでは四つ目のチャンスに挑戦してください」
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