2つ目のチャンス


 また俺は、ワカメが揺れるように七色の光が揺れ動く異空間にいた。


 正直なところ、あと6度のチャンスなどどうでも良くなりかけているが、この空間にいると乗り物酔いみたいな気分になりそうなので、早いとこ何処かの時代に飛びたい。


 とりあえず、昔の方から攻めてみるか。俺はもう一度、小学校時代に飛んだ。


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 俺は廊下から教室を眺めた。小学生の頃の俺がいた教室だ。


 小学生の俺は、落ち着きなくキョロキョロとまわりを見回している。周りの生徒たちは、隣同士や前後同士でペチャクチャとおしゃべりに興じていた。


 教室の前では、教壇に両肘をついて、仏頂面をした教師が黙って座っていた。


 俺にとっては苦い思い出だった。この頃の俺は、あまりにも純粋すぎた。もっとも、小学2年生なのだからしょうがない。


「そんなにしゃべりたければ、授業はやめます。好きなだけしゃべりなさい」


 あのとき、確かに先生はそう言ったのだ。


 俺にとって、先生の言うことは絶対だった。そして不幸なことに、俺はそのとき学級委員だったのだ。俺は、本当にこれでいいのかと思いながらも、先生の言うことに逆らうことができなかった。


 忖度なんて、小学生の俺には無理だったのだ。


 終業のベルが鳴った後、俺は先生に廊下へ呼び出された。俺はてっきり、言いつけを守ったことを褒められるのだと思った。


 結果は推して知るべしだった。俺はもの凄く叱られた。


「学級委員の君がおしゃべりをやめさせないで、誰がやめさせるんだ!」


 好きなだけしゃべってろって言ったのは、先生じゃないか。俺はトラウマになるほどショックを受けた。


 今考えたら馬鹿だったなとは思うが、何度も言うけど、俺はただ純粋なだけだったんだ。


「死神・・・様」聞こえるだろうか。俺は呟いてみた。「確認したいことがある」


「何ですか?」


どの時代にいても、死神と連絡は取れるようになっているようだ。


「俺の姿が特定の1人にだけ見えるようにできるか?」


「あなたがそう願えば、できますよ」


 よし。俺は幽体のまま壁抜けで教室に入り、小学生の俺の前にやってきた。そしてしゃがむと、彼の目を見ながら言った。


「なあ君、こんなに騒がしくていいと思うか?」


 小さい俺は、困惑しているようだった。


「学校は、勉強しに来るところだろう?」

「でも・・・」

小さい俺は、まだわかっていないようだ。


「いいか、よく聞きなさい」俺はできるだけ優しい口調で言った。「君はまだ小さいからよくわからないだろうが、先生は本気であんなことを言ったわけじゃない。君が学級委員として、みんなを静かにさせるのを期待しているんだ」


「そうなの?」小さい俺は、大きく目を見開いて言った。


「そうだよ。みんなを静かにさせて、『先生、授業を続けてください。お願いします』と言えば、君は先生から褒められるよ」


 小さい俺は、大きく頷いた。


 俺は教室を出た。後ろで「みんな、聞いて」と、小さい俺の声がした。


 これで俺は、人の気持ちを考えられるようになる。結構大きな転機なんじゃないか、と俺には思えた。



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 俺は賽の河原に戻ってきた。死神が、先ほどと同じように立っている。


「二つ目のチャンス。判定を行います」


「あー、ちょっと待ってくれ」俺は言った。「そのふざけた装置、なんて言うんだ?ボタンを押すと『ピンポン』とか『ブー』とか鳴って〇✕が出てくるやつ。使わないでくれないかな」


「どうしてですか?わかりやすいと思って、わざわざ買ってきたのに」


親切心だったのか・・・。


「じゃあ、まあいいや。判定してくれ」


 死神はボタンを押した。


『ブー』という音がして、プラスチック板からまた『×』マークが立ち上がった。


「残念。また正解ではありませんでした」


 俺は自分でもびっくりするくらい深いため息をついた。やっぱり馬鹿にされているような気がしてならない。


「それでは三つ目のチャンスに挑戦してください」

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