1つ目のチャンス
うねうねとワカメが揺れるように、七色の光が揺れ動く空間に俺はいた。ここはどこかの時空の狭間のようだ。
さて、どうしたものか。チャンスは7回あるという。正直、どうでもいいような気もする。俺の人生なんて、所詮そんなもんだ。
だがせっかくの機会だから、長年疑問に思っていたことを解決してみようか。今の俺になら、できるはずだ。
俺は小学生時代に向かった。
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小学校の男子トイレ。古い校舎なので、小便器がない。コンクリートの壁に向かって放尿すると、下の溝に尿が落ちて流れてゆく。勿論、水洗などという代物ではない。
今では考えられないような構造だ。
俺は幽体になって、姿を隠している。もうすぐ休み時間になるので、生徒たちがやってくるはずだ。
当時は、始業・終業のチャイムなんてない。ジリリリリリリ・・・とベルが鳴った。それが授業が終わった合図だ。
子どもたちがトイレにやってきた。俺はその中に、当時の自分を見つけ出した。
子どもの俺が、おしっこをしようとしたその時。
俺は実体化して『そいつ』の手を掴んだ。
「・・・お前だったのか」俺はつぶやくように言った。
当時俺は、小便を漏らしそうになっていて、急いで性器を出そうとしたときに、突然後ろから押されたのだった。その結果、コンクリートの壁に手をつき、小便を漏らしてしまったのだ。
誰の仕業か、当時はわからなかった。俺はあの後、泣きながら家に帰った。
今、その犯人が俺の目の前にいる。・・・そうか、お前だったのか。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、俺を見つめているのは、友達のTだった。
なぜお前なんだ。なぜ黙っていたんだ。なぜ謝ってくれなかったんだ。
だが俺は、なぜだかもうどうでも良くなってきた。
「そんなことをするもんじゃない」
俺はTに言うと、トイレを出て行った。
俺たちの友情は、何だったんだ。
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俺は賽の河原に戻った。死神が、先ほどと同じように立っている。
「一つ目のチャンスの判定を行います」
死神は、俺から向かって右側にある細長いボックスに歩み寄った。その上には、白いプラスチック板が置かれていて、プラスチック板の上には赤いボタンがある。
嫌な予感がする。
死神は、その赤いボタンを押した。
『ブー』という音がして、プラスチック板から『×』マークが立ち上がった。
「残念。正解ではありませんでした」
何だそれ。本当にクイズ番組じゃねえか。真面目にやる気がないのか?
まあ、あんなんで俺が死ぬ運命が変わるとは思っていなかったが。
「それでは、2つ目のチャンスに挑戦してください」
俺はまた、ワカメ空間に送り込まれた。
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