タイム・フライズ~7つのチャンス~
@windrain
プロローグ
俺の名前は沢木憂士(さわきゆうし)、当年とって60歳。
俺は今、病室の天井付近に浮いている。そして、酸素マスクをつけて眠っている自分の姿を眺めていた。
ベッドサイトモニターの心電図は、もはや波形を示しておらず、心拍数も0になっている。
かたわらにいる医師も、今、心肺蘇生措置を終えたところで、つまり俺は死んだということだ。
そうか、死んじゃったのか、俺・・・。身内が誰もいない中で・・・。
どうしてこんなことになったのかは、まったく思い出せない。
そのとき、病室の隅の方の天井からまばゆいばかりの光が差してきた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
俺は、どこか知らないところへ飛ばされたらしい。
けど、ドラマか何かで見たことがある景色だった。多分、「賽の河原(さいのかわら)」とかいうところで、そばを流れているのは「三途の川(さんずのかわ)」とかいうものだ。
目の前、5メートル程先に誰かが立っている。誰かと言ったが、およそ人間らしい気配がしないそいつは、真っ黒な衣装で顔まで覆われ、身の丈よりも長い杖のような物を地面についている。
多分、死神というやつなんだろうと、状況から見当はついた。
だが待てよ、死神なら死んでから来るのでは遅いだろう。少なくとも死ぬ直前に死を宣告するのが仕事なんじゃないのか?
「私が見えてますか?」
死神は言った。女の声だ。
俺は頷いた。
「申し訳ないのですが、ちょっと手違いがあったようで、あなたの死亡予定日時よりだいぶ早くお亡くなりになってしまったようです。」
なんだそれ。死神のくせに、死をコントロールできてないのか?新米なのか?
「それでですね、このままだと公平性を欠くので、もしあなたが現世に戻ることを希望される場合には、こちらの提示した条件をクリアできた場合のみ、現世に戻るチャンスが与えられることになっています。どういたしますか?チャレンジなさいますか?」
クイズ番組じゃないんだぞ。そんないい加減なことでいいのか?
「死亡に異存がないようでしたら、このまま冥界行きでも構いませんが、そうなさいますか?」
「ちょっと待ってくれよ」俺はため息をついて言った。「まずその、提示する条件っていうのを教えてくれ」
「難しいことではありません。あなたの人生を変える分岐点を探して、種を蒔いていただくことです」
「は?」
「あなたは生まれてから今までの、どの時代へも自由に行けます。過去のどこかに、あなたの人生が変わる分岐点があります。それを見つけて、死なない人生に変えることができれば、条件をクリアしたと認められます」
「それって、俺以外の人の過去も変えることにならないか?タイムスリップだかタイムリープだか知らないが、過去を変えるとパラレルワールドになってしまうから、一番やっちゃいけないことだろ?」
「大丈夫です。過去は多少変えたとしても、いずれ同じ未来に舵が切られるものです」
「言ってることが矛盾しているだろう。それだったら、過去に遡って何をやったところで、同じ未来になる」
「いえ、正解の分岐点だけは、たった1つしかありません。そこで過去を変えると、あなたは死なずに済むのです」
「じゃあ、簡単なことじゃないか。死んだ原因になった事象をなかったことにしてしまえばいいんだ」
「それは『なし』とします。死亡に直接関わる原因を変えることはできない、というルールで。だいたいあなたは、自分の死因がわかっていないはずです」
それで死因に関する記憶が抜け落ちているのか?面倒くさいな。
「一つ聞きたい。過去の俺に会って、助言するというのは『あり』なのか?」
「それは許されます」
「そうだとすると、正解の分岐点が1カ所しかないというのはおかしいんじゃないか?いくらでも俺の人生を変えられそうだが」
「あなたが過去の自分に助言したとしても、過去のあなたが言うことを聞くとは限りませんよ」
なんか禅問答みたいになってきた。本当に面倒くさい。
「それから、あなたが過去に行ったときは、外見をいつの自分にすることもできます。ほかの人に見つからないように、幽体にもなれます。たとえば今、あなたの姿はこのようになっています」
俺の前に突然大鏡が現れた。そこに映った俺の姿は、二十代の姿に見えた。
「それがデフォルトのあなたの姿です。どうやらあなたの精神年齢は二十代のままのようですね」
俺はなんだか恥ずかしくなったが、おそらく事実なので、何も言い返せない。
そうだ、いつも俺は思っていた。俺はあの頃から何も成長していない、と。
鏡に映る自分の顔が、自分だとは思えずにいた。俺は、俺は・・・。
「あなたが条件をクリアするチャンスは7回までとします。1回過去を変えるごとに、ここへ戻って来てください。それでは開始しますが、よろしいですか?」
7回もチャンスをくれるのか?なんてサービスが良いんだ。今まで馬鹿にするみたいな話し方をしてしまっていたが、仮にも「神」と名のつく存在だった。
申し訳ないことをしたな。
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