8 切れた
「─もしもし。はい。ああ、先生…はい、大和の母です。…あ、そうなんですか。…ええ、でもうちの子、本当に辛そうな様子でもなかったし、…まあ、私が気付けていなかっただけかもしれないんですが…ええ。ほら、蓮君もいましたし…。ああ、幼馴染なんです、うちの子と蓮君。幼稚園からずっと一緒に遊んでたり、喧嘩したって言ったら大体蓮君となんですよ、本当に仲が良くて…、あ、すみません脱線してしまって…はい、いつも一緒に居たんですけど、あの日は一人で帰ってきて…夏休みの前日です、はい。それで私、蓮君とまた喧嘩でもしたのかと思ったんですけど、それにしては様子がおかしいな、と…。卵と牛乳、買ってきてくれてないし…ああ、いえ、何でもないです。…あの日、ただいますら言わなかったんですよ、あの子。いつもはちゃんと言うんですけど。…ずーっと、「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい」、「おかしい」って、言ってるんです。「おかしいおかしいおかしい」。何が、何がおかしいのって聞いても、また「おかしいおかしいおかしい」って言うんです。何も答えてくれなくて。ああ、いやまあ、「おかしい」とは言うんですが。…ずっと「おかしい」って言い続けて、ずっと、ずーっと…。…夏休み前日の、あの日から、新学期が始まった今日までずーっと…。蓮君も迎えに来てくれたのに、あの子、ずっと呆けて…、ご飯も食べようとしないんです。同じことばかり言っていて、目も合わない。…今は、ご飯とか…水とか、無理矢理口に入れたりしています。…今ですか?今、今も言っていますよ、隣に居ます。「おかしい」って言ってますよ、聞こえますか?…聞こえました?…そうですか。…はい。流石に、もうだめだと思ったんです。こんな調子ですから、私も主人も気が滅入ってしまって…。はい。だから今度…息子を精神科に連れていこうと思ってまして…。…はい…。─あ、ああ、おかしいおかしいって…、何がおかしいのよ…何でそれしか言わないの、言ってくれないのよ…!こっちがおかしくなってくる、あ、ああもう黙って!何、何が悪かったの、何がおかしかったの?…わ、私、私がいけないのかしら、お、親の、私が…!」
電話は切れたようだった。
逃げ水 カワイイ! @tokiiro-kawaii
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