そして俺達は再会する

 気がつくと、見知らぬ天井が目の前にあった。いつか見たアニメでそんなシーンがあったことを思い出す。


 ……俺は助かったのか。そういえば木村さんは無事だったろうか。何か怪我をしていなければいいけれど。


 上半身を起こしてみて辺りの様子を伺う。どうやら病室らしい。身体に違和感はそんなに無い。大事にはならずに済んだようだ。


「おはようございます。生天目くん。」


 声が聞こえた方へと目を遣ると、木村さんが俺と同じようにベッドの上に居た。


「ああ、おはよう。木村さん。そっちはなんとも無かったかい?」

「ええ。お陰様で。どうやら生天目くんが盾になってくれたみたいでこっちは怪我は擦り傷くらいで済みました。ただ、頭を打ってしまったのでその関係で検査入院ということにはなってしまいましたけれど。」

「それはよかった。……俺の方も何ともなさそうだ。」

「少し安心しました。昨日は終日目を覚ましませんでしたから。」

「マジか。俺丸一日寝てたのか。入学式すっぽかしちまった。」

「しょうがないですよ。こんな状況ですから。それに一度経験済みなのだから問題もさしてありませんし。」

「だな。まぁ、これで前回の人生であった懸念事項は解決ってところだな。」

「ですね。」


 そうだ。取り敢えず木村さんが後遺症を抱えるとかそういうことは回避できた。これでいい。


「ところで、生天目くん。」

「改まってなんだい?」

「10年後の返事、今でも聞きたいですか?」

「そりゃあそうさ。聞けるならどんな手段だって取りたいよ。」

「それなら……。今すぐに、でもですか?」

「当然さ。」


 俺はなんてことないように言った。それを見た木村さんはひとつ、深呼吸をして話し始めた。


「生天目くん、覚えてますか?初めてデートしたときのこと。」

「まあな。確かあれはタイムリープの2年前だったかな。夜景を眺めに行ったんだよ。名所の公園に。で、その後ディナーを頂いたんだけどその時カードがたまたま使えなくなっちゃってね。手持ちも少なかったものだから立て替えてもらったんだよね。……面目なかったなぁ。」


 そう。あの時丁度サイバー攻撃とかあったらしくてシステムダウンでカードの決済が全部ダメになってしまった。それで現金はあまり持ち歩かないのもあって払えなくなってしまったのだ。たまたままとまった現金を彼女が持っていたからなんとかなったけどあれ程穴に入りたいと思ったことは無かった。


「でも、生天目くん埋め合わせをしてくれたじゃないですか。利子だとか言って前から行きたいと言ってた鉄板焼きをご馳走してくれたわけですし。」

「……えっ?」


 なぜその話を木村さんがしっているのだろうか。誰にも言っていないはずなのに。……まして彼女はペラペラと他人に話すタイプでもないのに。どうして?


「生天目くん、彼女さんの顔忘れちゃいました?ひどいじゃないですか。」


 言葉とは裏腹に柔らかな笑みで木村さんは言った。


「いや……人相は確かに似ているけれど………名前だって違ったじゃないか。」

「そりゃあ両親があの後離婚してしまいましてね。その関係で名前変わってしまったんですよ。」


 そうだったのか。……気が付かなかったなんて案外俺も薄情なものだ。


「信じられませんか?」

「いや、間違いなく君は俺の彼女だよ。……気が付かなくて申し訳ない。」

「いえ、私は気にしてませんよ?」


 事も無げに笑みを浮かべている。


「さて、私は返事を言いたくてしょうがありません。……生天目くん、お願いしますね?」

「……ああ。」


 ひとつ、深呼吸。もう永久に言えないかと思った言葉を慎重に頭の中で組み立てていく。


 そして、俺は一歩、関係性を前に大きく進める言葉を言った。


 その……木村さんの返事の言葉と笑顔を俺は生涯忘れることは無いだろう。

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タイムリープしちゃったけれどさ、俺別に人生偶然とはいえ上手く行っていたしなんで巻き戻らされたんですか?元の時代に返してくれ。プロポーズの前夜だったんだぞ。 緑川 湖 @Green_River_114

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