第2話 砂漠に落ちた少女。


久しぶりに長い夢を見たようだった。

 それは悪夢だった。

 全く思い出したくない記憶だった。

 けれど、いつもと同じ場面で、夢は終わる。


 そっと、目を開けた。まぶたは重かったけれど、ゆっくりと。


 そして、青空が見えた。スタンプ星のと同じ、青い天だった。 

 

 「あ………れ」


なんで空が見えるんだろうと、ぼんやり思う。そういえば、顔には空気が流れているのを感じる。


風が吹いているのだ。


久しぶりだった。ああ、気持ち良いなぁ、とメロンは思う。

 風なんて、前に立ち寄った惑星の時以来だった。

 

 ズキズキと痛む背中には、ふんわりと包み込むような柔らかい大地の感覚。

 首にも肩にも、鈍い痛みがあった。けれど、感じるままの頭で、上体を起こす。

 起き上がるだけでも、息が上がりそうだった。


 地面に座るような姿勢になったところで、違和感を覚える。

 地面が、柔らかすぎる。地面を両手で掬ってみる。サラサラと、指の間を落ちていく。

 これは、砂だ。この地は、砂でできているのだ。

 なぜ、砂の上に座ってるんだろう。そもそも、私は宇宙船にいたはずじゃ。

 メロンの頭は、急速に覚醒する。そして、思い出す。


 わたし、墜落したんだ。


 そしてあたりを見渡す、


 ここは………。


 『ああ、君。目、覚めたんだ。災難だねぇ、この砂漠に墜落するなんて』

 

 声がして、ビクッと肩が震えた。メロンの3メートルほど右方に、工具と鉄塊に囲まれた少女がいた。

 少女は、白くて袖長のローブを身に纏い、日焼けした顔だけを露出させている。

 

 「あなた、誰」


メロンは尋ねる。船の緊急アラームが鳴ったところまで思い出したけれど、そこからは何も覚えていない。

 ここは、砂の大地だ。一面、どこまでも続いている。隣で胡座をかいて作業をしている少女は誰なのか。

 

 『わたしは、タキ。この砂漠を少し西に行ったとこの村に住んでる。ビックリしたよ、朝』


タキは、にっこりと笑う。


『空から、明るい光が落ちてきて、隕石が落ちたのかと。それで見にきたら、宇宙船だったんだもん』

 

「そんな激しく落ちてたんですね、わたし」


『そうよ。村中、大騒ぎだったんだから』


 一応、不時着モードで落ちたはずなのだが、システムがダウンしていたせいか、本当に墜落という言葉がふさわしかったようだ。

 

 メロンは、痛む肩をさする。よく命があったものだ。


 「あの、ここはなんという名前の星ですか?」


 『ん? なに君、もしかして他の星の人?』


 タキは、不思議そうに首をかしげる。


 「あっ、そうです。わたしはスタンプ星のメロンです」


『はぇー。なるほどねぇ』


 四角かったり、丸かったりする鉄の塊を散らかしながら、タキは目を瞑って頷く。手にはスパナを持っている。

 

『ここは、地球だよ。ねぇ、メロンちゃん、この意味わかる?』


「え? いえ、わかりません」

 

 チキュウ。聞いたことのない名前だった。


『そーかそーか。ならいいの。でも君の姿、地球人の子供にしか見えないよねぇ。異星人とか信じられないわ』


変身アイテムでも使ってる?、と聞いてくるので、メロンは首を振る。確かに異星の住人であるはずのタキは、一般的なスタンプ星人と同じ姿をしている。


 「もしかすると、チキュウとスタンプ星は、ルーツが同じなのかもしれませんね」


 メロンがそう言うと、なぜかタキは大爆笑した。そして隣に置いてある大きなリュックの中から、今度はハンマーを取り出す。そして、まわりの鉄屑を一つ一つ叩く。


 カン! カン! カン!


 「あ、あの、」


『ん?』


「タキさんは何をなさってるんですか。金属の塊を、その、いじっているみたいですけど」


『あー。これはね、解体作業だよ。あなたの宇宙船の』


 「え、わたしの宇宙船ですか?」


『うん、もう大分終わったけどね』


 タキはにっこり笑顔のまま、鉄塊にハンマーをふるう。その鉄屑たちはもう、グチャグチャで原型を留めていなかった。


メロンは混乱する。なぜ、自分の所有物であるはずの宇宙船を、他人が勝手に壊しているのか。タキは笑顔のままだ。

 

 『わたしが来た時はね、この宇宙船、全くの無傷だったのよ。すごいよね』


 「は?」


メロンは、首をかしげる。宇宙船は、無傷だった?

 

 『あなたの星の技術、よほどすごいのね。隕石のごとく落ちても、全く壊れてなかった。

船内も物が散乱してたけど、君は無事みたいだったし』


 なんで、とメロンは目を白黒させる。全く壊れてなくて。船内。まるで、船を物色したみたいに聞こえる。


タキは、ハンマーを振り続ける。そして、バギッという音と共に、鉄塊が砕けた。砕けた断面を、タキはまじまじと見ていた。


 『これにも希金入ってないの。期待してたんだけどなー。あんまり高くは売れなさそう』


 「あの………タキさん?」


 メロンは、汗をかいた。それが、頭上にある熱を放射する星のせいではなく、恐怖ゆえのものだった。


 『メロンちゃんさ。子供だけの旅は、おすすめしないなー。君みたいな純粋な子はさ、悪いやつの格好の餌食なんだから』


「そ、そんな」


タキは、笑顔ではなくなった。軽蔑するようにメロンを一瞥して、ハンマーを置く。


 『わたしは、解体屋。この砂漠に落ちてくる宇宙船をバラして、希少パーツを売るって仕事してるの。そんで邪魔だから、乗組員は全員殺すの』


 「ひっ」


逃げないと。メロンの心臓が大きく跳ねた。しかし、立ちあがろうとする足には力が入らない。


 『大事故の後に、無理しないの。まぁ、安心してよ。今すぐに殺したりしないから』


タキはあくびをして、立ち上がる。そして、リュックの中から、何か四角いものを取り出した。


 「そ、それ、わたしの船のナビ………?」


タキが取り出したのは、いつも船のリビングに置いてあったタブレットサイズのモニターだった。

 そのモニターは、自動操縦システムを司る情報の集約媒体であり、宇宙地図のデータが入っている。それから、今までどこの経路を辿ったのか、航海履歴も保存される。


 『そう。どこの船にもある、普通の自動操縦ナビ。でも君の船の行き先、ちょっと変だね』


鉄屑を踏まないようにメロンの元へと、タキは歩んでくる。


『教えて。なんで、アールグレイ星の座標データを、あなたが持っているの?』

 

 

 










 









 

 




 

 

 

 


 

 



 

 


 

 

 

 

 

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砂漠になったよ、この星は ひとり遊び @959595

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