大文字伝子の休日19

クライングフリーマン

大文字伝子の休日19

午後1時。大文字邸。DDメンバーが、EITO用のPCのある部屋に集まっていた。

画面には理事官が映っている。DDメンバーとは、大文字伝子ゆかりの人間の集まりで、伝子の協力者達のことである。高遠が、『大文字 Detective(大文字探偵局)』として命名したが、最近は『大文字’s Dimension(大文字の次元)』がふさわしい、と言っている。

「まず、拳銃強奪犯人木更津新一は、借金があり、ナイフで警察官を襲い、拳銃を奪い、佐久田額が済んでいるアパートこがね荘に逃げ込んだ。それをさせたのは、今回の、小田社長誘拐事件の主犯、自称島田光子だ。借金を肩代わりする代わりに拳銃を強奪しろ、と唆した。拳銃は、木更津と警察官の東野巡査と揉み合う内に暴発し、東野巡査は残念ながら殉職した。木更津は佐久田と友人だ。立てこもりじゃなく、相談に行った。そこへ、島田と夫役の子分、大松徹が現れ、二人を心中のような工作をして、時限装置を仕掛けた。警察を通してのEITOは島田達に、住人救出作戦の協力を求めた。島田は了承せざるを得なかった。大文字伝子の名前は既に『死の商人』達に知られている。島田は行動隊長らしき人物が大文字伝子と見当をつけた。そして、色んな事件から依田君が大文字伝子と関わりがある、ということも『死の商人』達に知られていた。宅配便のドライバーから依田君の住まいを突き止めていた。それが、木更津と接点を持った1ヶ月以上前のことだ。」

「理事官。依田の住まいは移転した方がいいのでしょうか?」「それは、今のところ分からない。場合によっては移転かな。どこまで言ったかな?ああ。小田社長のことは、依田家に侵入して、ばったり出くわしたそうだ。そこで人質にすることにした。小田社長は、わざと奇妙なメッセージを残した。『留守のようなので、帰ります。』『留守のようなので、君たちの大事な人は預かったよ。』依田君によると、施錠していなかったそうだね。鍵は社長が持っていたんだろう?」

理事官の問いに、「ええ。あの部屋は元々社長の持ち物ですから。」と応えた。

2通の手紙、いや、紙片は鑑定の結果、同一人物だった。小田社長が書いたんだ。拳銃で脅かされていたのに、社長も大した度胸だった。誘拐犯人の島田が書かなかったのは、那珂国人だから、文章を書くのが苦手だったから。子分の大松は外で見張りをしていたし。そこで、住宅予定地での乱闘になった。高遠君は偽物エマージェンシーガールズが現れると分かったのかね?」

「いえ。犯人が大胆で、凝ったことをするのが好きな人物じゃないか?と思っただけです。」

枝山事務官が横から顔を出した。「今度から、プロファイリングをお任せしようかな?」と枝山は笑った。

「トリックにはトリックという訳で、ご婦人方に協力頂いて、以前作ったフードを取り付けた。謝礼は出させて貰うよ。最後に。島田は自称していたように『元締め』らしい。が、大ボスがいることも仄めかした。誰だ?と尋ねたら、あんたらの仕事だろう、と笑ったよ。」画面から理事官の姿は消えた。

「紹介しよう。新隊員のひなた一佐だ。」と伝子はDDメンバーに紹介した。

「ひゅうがと書いて、『ひなた』です。よろしくお願いします。」と、日向は皆に頭を下げた。

「あかりちゃんが言った通り、童顔でしょ。体型は、おねえさまと同じだけど。」とみちるが言った。

「体型が近いので、アンバサダーの影武者の役目も担います。得意なのは剣道です。と言うひなたに、「あなたなら、安心して後を任せられる、出産出来るわ。」とみちるが言った。

「みちる。言葉に気をつけろよ。ひなたさんは、一佐だぜ。階級は橘なぎさ一佐と同格。」と、愛宕が窘め、「いっけない。」と舌を出した。

「それで、先輩。野球やってたんですか、闘いの後で。」と祥子が尋ねた。

「まさか。でもまたやれるといいね。野球大会。」と伝子は言った。

茶話会は2時間続いた。藤井が煎餅の新作を持って来たが、お土産にして、散会となった。

しかし、「じゃ、女子は行くぞ。」と伝子は言い、女子は伝子に続いてオスプレイに続く通路を歩いて行った。勿論、藤井も森も綾子も。

「成程。藤井さんたちも女子だよね。」と依田が呟くと、「馬鹿。聞こえるぞ。」と、物部が窘めた。

愛宕が入って来て、「みんなどこ行くの?高遠さん。」と言った。

「みんなじゃなくて、女子のみんな。ウーマン銭湯に行ったんだよ。裸のお付き合いだってさ。」と福本が笑って修正した。

「ねえ。服部さん。買って来たのを再生してよ。『男子』だけで聞こう。」と高遠が促した。

「服部さん。またレコード買ったの?」と南原が言うと、「いやいや今回は何とミュージックテープ。聞き甲斐があるよ。」とラジカセにカセットテープをセットした。

歌が流れてきた。


「いい歌だなあ。どこのコーラス部かと思ったよ。」と、入って来た筒井が言った。

「筒井さん。今日はゆっくりできるんですか?」高遠は新作の煎餅を筒井にも渡し、「1時間位ならな。」という筒井のコーヒーを入れてやった。服部はテープを止めた。

「そうだ。筒井はどう思う?」と物部は尋ねた。

「どう思う?って?」「死の商人さ。まだいるのかな。」

「いるかも知れないな。いたら、今回よりも凄惨な闘いになるかも知れない。もう戦争だな。島田は死の商人の元締めだと認めているが、大ボスのことは語らない。出方を見守るしかないな。理事官も頭を悩ませている。DDバッジや長波ホイッスルだけではDDメンバーを守れないかも知れないから。」

筒井と物部の会話に、高遠は唸った。DDバッジとは、危険信号をEITOに知らせる物で、見た目は普通のバッジだ。長波ホイッスルは犬笛のような笛で、危険を知らせたり合図を送ったりするが、普通の人間の耳には聞こえない。EITOが受信して、対処する。

「今の所、警備を強化するしかないな。」と言って入って来たのは、中津健二と、皆が知らない男だった。

「皆に紹介しよう。夏目房之助。表向きは、市場調査の会社の社長だ。」と、筒井が説明した。「実は、副総監直属の部下だ。まあ、俺とは違うが、潜入捜査官の一種だな。」

「副総監直属ってことは、あつこ警視は知っているんですか?」と高遠が尋ねると、「勿論だよ、高遠。夏目警視正だからな。」と筒井は笑った。

「じゃ、警視より階級が上ですか。」と、福本が驚いた。「まあ、そうだね。今度大きい動きがあったら、裏も表も前に出るよ。」と夏目は言った。

「今までは、反社の動きを監視していたんだ。町中でパイプ椅子置いて、カウンターでカウントアップしながらな。部下の調査員の多くは、警察官なんだ。目立たないだろ?黒子にぴったりだろう?」と筒井は言った。

「この煎餅、旨いな。」と言って中津健二は、ひたすら頬張っていた。

「これから何度も会議を重ねることになる。高遠。子作りしている暇なくて済まんな。今夜から当分帰れない。」と筒井が言うと、「慣れてますよ、筒井さん。みんなを守る手段が増えたら教えて下さい、早急に。」と高遠は応えた。

「了解だ。じゃ、帰ろうか。」と筒井が中津を誘うと、「高遠さん、これ・・・。」と中津が言いかけた。

高遠は黙って箱の中から一袋ずつ、中津と夏目と筒井に煎餅を渡した。3人は帰って行った。

「そろそろ、お暇するわ。」と、物部が言うと、福本、依田、南原、服部、山城も帰宅すると言い出した。高遠は『長い玄関通路』を渡って、皆を送り出した。出入り口まで優に100メートルある。

大文字邸は、実際はEITO秘密基地に内包されている。

高遠は、テープをかけ、夕食の準備をし、伝子の翻訳原稿の下訳作業を始めた。

夕食を一人で食べ、入浴をして、ひかるにLinenメッセージを送った。

すると、ひかるから電話がかかって来た。「高遠さん、大変だよ。みちるさん家が燃えている。」

高遠は高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、テレビをつけ、EITOのPCの前に座った。

―完―



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