文字を食べる魚、その名は文字魚

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第1話

 最近爆発的に認知が広がった魚類について、とある番組で若き研究者は語った。


「実は発見自体はかなり前からされていたのですが、それは全く未知の生物でした。最大の特徴は彼らが食べるのが『文字』という事です」


 ――文字ですか?


「ええ、そう説明した方がわかりやすいかと。なので僕たちは彼らの事を『文字魚もじうお』と呼んでいます」


 ――文字魚。なるほどわかりやすい名前ですね。


「文字魚は、発見当時何を食べるのかまったくわかりませんでした。見かけは透明に近いメダカのようなものだったのですが、虫や微生物、市販の餌もいろいろ試しましたが何も受け付けなかったです。でもある日、研究者のひとりが書類を一枚水槽に落としてしまったんですね」


 ――そしてその書類の『文字』を魚が食べたんですよね?


「はい。最初は住処に落ちてきた異物を警戒してるのかと思ったのですが、よーく見たらね。書類の文字が啄まれて消えてったんですよ。アレは驚きましたね! そのあとすぐに試したところ、やはり文字を食べる事が確定されました」


 ――偶然から発見された真実ですね。ところで書類を落とした研究者って……


「うっ、もう気付いてらっしゃるでしょうが僕です。お恥ずかしい限りですが、それが切っ掛けで文字魚にのめり込むようになったので怪我の功名といいますか……」


 ――なるほど! ところで今回はそんな文字魚の専門家から広く知らしめて欲しいことがあるとか?


「はい。今回のインタビューを受けた理由の多くはそこにありまして。研究を進めていく内に、この文字魚が食べた文字によって多様な進化をすることがわかってきたんです」


 ――たとえば?


「文字を食べれば食べる程、彼らは成長していきます。大きな文字を食べれば身体が大きく、長い文字を食べれば身体が長く……これだけでも興味深いんですが。どうやら文字より単語、単語より文章といった感じに影響の幅が大きいようで」


 ――……えーとつまり?


「仮説ですが、気持ちの入った文章であればより文字魚の身体を変化させると思われます。小説とかね。恋愛小説なら体色がピンク色の鱗がハート型になったり、駅伝を扱った物語では足のようなものが生えてきたり……」


 大発見じゃないですか!?


「とても面白いでしょう? ただ圧倒的にデータが不足してまして、うちの研究者だけじゃ足りないわけです。そこで協力頂ける方に文字魚をお渡ししてテスターになってもらおうかと。どんな文字、物語を食べさせたらどんな変化・進化になるのか知りたいんです」


 彼はにこやかに、けれど大胆に宣伝した。


「難しく考えず、なんでしたら新種のペットだと考えてもいいでしょう。イメージ的にはポケ●ンみたいな? まあ、是非可愛がってみてください。そしてあなただけの文字魚を僕たちに教えてほしいな」


 文字魚の存在が当たり前になっている世界を想像したのだろうか。

 その若き研究者は、語っている間ずっと子供のような笑顔を浮かべていたという。


 

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