第5話 村にて

「あ、結局話していて修行自体をしなかったな。クールタイムは……やっぱり一時間か。もう少し薪を拾って、帰るか」


 気がつけばだいぶ時間が経っていた。それに、いま確認できることはもうない。

 俺はそのまま薪拾いを続けることにした。


 ◆◇


「そんな。嘘だろ……」


 薪を拾って村へ帰りついた俺の目の前に広がっていたのは、散々たる光景だった。


 壊れかけた家。

 地面に伏す村人たちと、その一部。

 今まさに何かに襲撃された直後のような惨状。


 思わず背負っていた薪を放り出すようにして置くと、俺は駆け出す。

 向かうのは、自宅。


「──はぁ、はぁ。イグナ母さん──」


 前世の記憶がよみがえったとはいえ、リーダスとして生きた記憶が上書きされ消えたわけではないのだ。逆に前世の記憶で、両親のことが思い出せない分、今の俺にとっての母は変わらずリーダスの母親であるイグナだけ、という気持ちが強い。


 自宅が見えてくる。

 一見、それは朝見た時のまま。なんの被害も受けていないように見える。


 勢いよくドアを開ける。

 部屋の中に、村をこんな状態にした存在がいる可能性など全く考えないまま。


 幸いなことに、そんなものはいなかった。

 しかし、母の姿もない。

 ふらふらと、たいして大きくない家の中を歩き回る。


「うっ……」


 テーブルの向こうに、大きな血だまりが一つ。

 すれたような痕が、その血だまりから続いている。俺はいきりたって、それを追いかける。

 勝手口から家の外へと続くそれを追いかけようとしたときだった。


 俺を呼ぶ声がする。


「リーダス、無事だったか……」

「え、父さん! ──その傷っ」


 それは狩りに出ていた父オルガハートだった。その見た目はボロボロだ。顔面は半分血に染まり、腕も片方骨が折れたかのように変な方向を向いている。


 思わず地面に横たわる父にかけよる。俺の伸ばした手を握り、父が息も絶え絶えに話す。


「リーダス、お前だけでも、無事で本当に、良かった。すまない、父さんはもうダメだ。母さんを、連れ去られ……頼む……」

「しっかりして、父さん! 気を確かに! そうだ、ヤクドウならっ。ガラケー召喚」


 逸る気持ちをおさえて俺は叫ぶ。

 現れたガラケー。

 小姓の項目を選択し、彼女たちを召喚する。

 光るガラケーから現れると、すぐさま戦闘態勢をとるカゲロウマルたち。


「まー。これは大変ですー。癒しますー。──癒しの手」


 のんびりした話しぶりとは裏腹に、さっと俺の隣にしゃがむと、父にその手をかざしてくれるヤクドウ。

 ぼわぼわっとした光が放たれ、父を包み込んでいく。


 しかし父の傷の治りは、思っていたよりもゆっくりだった。


「……あれぇ。変ですー」


 不思議そうなヤクドウ。

 それでも死相と呼ぶにふさわしい表情だった父の顔は、かなり穏やかになっていく。


 俺はそっと父の顔の血を拭う。


「目が……。傷は、かなりふさがっているみたいだけど。眼球が、これはもう──」

「ごめんなさい……。コペコペ様とー小姓のみな以外だとー。癒やしの手の効果が薄いみたぃ」


 傷が完治しないままに、意識を失った様子の父。

 そんな俺の父を見ながら、申し訳なさげにしょんぼりとしているヤクドウ。


「そんなことないよ。お陰で父の命は助かった。本当に、本当にありがとう、ヤクドウさん」


 俺はヤクドウの手をとり、本心からの感謝を伝えると必死に笑顔を作り、ゆっくりと頭を下げたのだった。



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