シャコバサボテンの祈り 🌺
上月くるを
シャコバサボテンの祈り 🌺
日が短くなって来ると、だれにも知られず、ひっそりと薄紅色のつぼみを付ける。
やっと咲いてもうつ向いたまま……シャコバサボテンの純真をほかに知りません。
なれど、シャコバサボテンがそのことで不平を言うのを聞いたことがありません。
一見すると痛そうな鋸状の葉っぱを、いつも黙ってやさしくしならせているだけ。
黄緑色のハート型の葉っぱのポトスと一緒に、一年中日当たりのいい東側の窓辺に置かれ、ガラスの外の沈丁花や薔薇や紫陽花や蝶や鳥や蜂を眺めて暮らしています。
🌹
ブラジル原産のシャコバサボテンが見ているのは、窓の外だけではありません。
「何もかも知つてをるなり
郊外のフラワーガーデンで二匹のwelcome犬と一緒に求められたのが六年前の春。
連れて来られたのは、体調のよくなさそうなオバサンが独りで暮らす平屋でした。
そのオバサンの名を橙子さんといい、遠く離れた都会にふたつの家族があること、末子として可愛がっていた犬を亡くしたこと、環境の激変で心身を病んでいること。
そして、橙子さんの一挙手一投足に滲む哀歓のことごとくを、春先に二度目の花を咲かせたあと秋まで長い沈黙に入るシャコバサボテンはよ~く承知しているのです。
🐕
ことに三年前、中国・武漢で一例目が発生した新型のウィルスが世界中に蔓延してこの方、心療内科医に厳禁されている橙子さんは、ふたつの家族に会えていません。
この世にひとりで取り残されたような歳月が無期限につづくと被害妄想が募るのでしょうか、シャンプーのとき指で感じる頭蓋骨が縮んでいく、そんな気がして……。
減るどころか増える一方の感染者数……ふたりの息子とそのパートナー、人と犬の孫たちにも会えないまま、ある日ふっと消えている、そんな不安を拭いきれません。
好き放題の限りを尽くして来たツケが一気に来ている現代のカオスに生きる、だれもが覚悟しなければならない運命だとしても、それにしても……。(ノД`)・゜・💧
💐
でもでも、どうか聞いてやってください 🌞 混迷の年も師走に入った日、恥ずかしがり屋のシャコバサボテンは、うつ向けている花を少しだけ仰向けたくなりました。
「おばあちゃんに喜んでもらえるのが、一番うれしいんだ~、おれ。(。・ω・。)ノ♡」
スマホから聞こえて来たのは中学三年のときから会っていない孫息子の弾んだ声。
「これからも一所懸命に勉強して、佳い大人になって、社会や地球に貢献してね~」
「うん、分かった。コロナが収束したら会いに行くから、それまで元気でいろよな」
別名をクリスマス・カクタスと呼ばれるシャコバサボテンは、今年も独りでイブを迎える橙子さんに、ひと足早く「メリークリスマス!!」を囁いたようです。🎄🔔
シャコバサボテンの祈り 🌺 上月くるを @kurutan
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