第96話 戦車型ロボで格闘を!? ……できらぁッ!
〈右のそいつ、 輸送機をやる気だ! 潰すんだ!〉
チャーリーからの警告。上空へガトリングを向けたランベルトの片割れへ、俺はフォールディング・キャノンを向けた。
ガトリング機関砲はスペック通りの連射速度を出すまでに、回転砲身をスピンアップするためのわずかなタイムラグが生じる。その隙をなんとか捉えて、120ミリをガトリングの機関部に叩きこんだ。
命中させることさえできるなら、装甲に覆われたモーターグリフの機体そのものよりも、武器を狙う方がこの場合には有効なのだ――
「っしゃ!」
着弾。ランベルトの右腕部付近に小さな爆発。
給弾装置へ送りこまれつつあった対空用の焼夷榴弾が誘爆したようだ。ランベルトはガトリングをパージして、肩に積んだミサイルラックをこちらに向けた。
「そんなもん撃たせてたまるか、クソがっ!」
カービンと右手を失った俺の「ドッケン」に、とれる戦法は限られる。俺はキャノンを収納状態に戻さず、ヒンジ部を空いた左腕で固定したままアクセルを全開にして、ランベルトへ突進した。
ミサイル発射の瞬間――相手の火器はこちらを追尾した結果、俺の前進につれて斜め下方へ向きつつあったが――ホバーノズルを全開にして空中へ機体を押し上げる。
発射のために各部の関節を一瞬ロックしたランベルトの斜め上で、俺は操縦レバーを介してノズルの推力方向を捻じ曲げた。結果――ドッケンの車体後部がランベルトに向かって振り下ろされるように横滑りした。
――ゴシャッ!
不吉な響きと衝撃が俺のコクピットまで伝わる。ランベルトは頭部を粉砕されて後方へ吹っ飛んだ。
脚部の前半部かなり偏った位置に胴部中枢ブロックを載せる、メルカトル系の脚部ならではの荒業といえる。
……いや、可能だとしても普通はこんなことはすまいが。足回りの破損が心配だったが、どうやら側面を守る分厚い装甲部分をぶつけていたようだ。これといったアラートは表示されていない。
この間に、マッケイのCC-37はどうにか安全圏へ逃れつつあった。
〈すげえ! もう一機のランベルトも任せるぜ。俺は戦車をやる!〉
チャーリーは戦況をよく見ている。鈍重なメルカトル相手なら、足を止めない限りは「ホワイト・カース」が翻弄できるはずだった。幸い、ここは元サービスエリア。足元が少し荒れてはいるが、高速で走り回るには都合がいい。
敵のメルカトルは、基本購入プランそのままの
遠距離から低速の標的を狙うには絶大な威力を発揮するが、ホワイト・カースを追尾するにはいささか鈍重だった。
旋回しながら撃ちこまれるホワイト・カースの30ミリカービンが、決定打にはならないものの敵機体各部のセンサーや関節部周囲のデリケートな部材を、じわじわと削っていく。
だがもう一機のランベルトは、なかなかに厄介な相手であるらしかった。
俺たちから距離を取って、弾数は少ないものの精密な射撃で中口径の砲弾を送りこんで来ている。おそらく、レダの愛用するものと同等の40ミリライフルか。
互いの高機動型機体が、先に相手の戦車型をつぶそうと走り回る。
「くそ、ちょこまかと逃げ回りやがって……!」
俺はキャノンで敵を捉えようと懸命にドッケンを操った。だが、いまひとつのところでタイミングと距離に恵まれない。
長引けば恐らくこちらが不利になる。ドッケンは半壊と言っていい状態だし、今のところは有利に見えるが軽装甲で非力な「ホワイト・カース」には、なにか絶妙なチャンスが無い限りは弾切れのタイミングが訪れるからだ。
ホワイト・カースが戦車を削る合間に、背部の垂直ミサイルを三発放つ。俺が追っているランベルトに対する牽制らしかった。一発が目標の至近で爆発――煙に包まれた敵機にドッケンが120ミリを放つ。
煙幕を抜けたランベルトには、左腕の肘から先が無かった。プラズマソードを装備していたのなら封じたことになる。だが、ライフルでの引き撃ちはなおじりじりと続く。
そして、俺たちはそれぞれの担当する敵に集中するあまり、倒したつもりでいた最初のランベルトを見ていなかった。
モニターに表示された後方カメラの映像に、アラートが出た。同時にチャーリーの警告――
〈サルワタリ、逃げろ!〉
先ほど頭部を失ったはずのランベルトが、後方からジャンプしてスラスターを吹かし、俺の直上を取っていた。
衝撃を感じないまま、火器管制パネルに真っ赤なエラー表示!
「クソ! キャノンを斬り飛ばされた!?」
上空からプラズマソードでかすめるように斬られたのだった。切断された砲身が、前面の傾斜装甲の上を跳ねる。そして、さらに警告が音声付きで表示された――
【脚部・車体後部に不正な荷重】
(まさか、馬乗りか!?)
首筋がキンと凍り付くような感覚。プラズマソードでブスリとやられたら、それで終る――俺はとっさに胴部ブロックを百八十度回して後ろへ向けた。残った左腕を思いっきり突き出し、左のレバーに振り分けた武装のファンクションを解放。
なぜその一瞬に、的確に出来たのかは不思議なほどだった――
バチ、と大電力が瞬間的に放出される音と共に、左腕のガイドレールの中を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます