第95話 悪辣な一手
「いや、待てよ……もう少し柔軟にやろう。うん」
少し相談した結果、俺たちはいったん合流地点から離れて数キロ移動した。上空から見つかりにくい木陰に身を隠す。戦車型と四脚型、いずれも全高が低いのが幸いだった。 敵にしろ迎えにしろ、なにもバカ正直に吹きっさらしの空き地に機体をさらして待つ必要はないのだ。
ここまでも極力温存した燃料電池の電力で、長距離通信機を立ち上げる。船舶無線ばりの冗長な長波通信が山々を越えてディヴァイン・グレイスに届く。
傭兵ユニオンの中枢は、別にあそこに存在しているわけではない。だが、街の充実した施設や「
〈こちらディヴァイン・グレイス広域管制セクション。コードナンバーを照会、昇格試験実施中のリガー『ミキオ・サルワタリ』と確認――帰投の申請だな?〉
「ああ、そうだ。ただ、現在この、旧コロラド州デンバー周辺では、何者かによる大規模な制圧作戦が行われているようだ。可変モーターグリフの支援下で移動する戦車とリグの部隊を確認した。合流地点での待機中、上空を通過するCC-45も目撃している。現地への着陸には危険が予想される――」
――大型輸送機の飛行について、何か飛行計画は提出されているか?
――「天秤」及びユニオンで把握しているものはありません! 各
通信機の向こうでしばしざわめきが起こり、各方面への連絡や照会を行っていることがうかがわれた。ややあって、保留された通話を今の管制員とは別の誰かが引き継いだようだった。
〈そちらの状況は了解した……試験の手順に大きな変更はない。迎えのCC-37輸送機は最終チェックを済ませた後、三十分後にここを発つ。到着までの所要時間は――四時間ほど見込んでくれ〉
「……分かった」
即応状態で待っていたようだが、想定よりも待ち時間が長い。現在の状況に応じて若干の装備変更や追加があるのだろう。これから四時間となると――日没の少し後か。VSTOL機とはいえ、発着に理想的な時間とは言い難い。
輸送機到着の十分前に再びサービスエリアに戻り、着陸可能箇所の四隅に
「仕方がないさ。俺たちは個人営業の傭兵ではあるが、戦闘そのものよりも準備や待機の方が、だいたい長丁場になるもんだ」
チャーリーの言う通りだと思う。直接知っているわけでもないが、物語に登場するもので言えば狙撃兵などはその最たるものだろう。
それからしばらく、俺たちは相変わらず木陰に潜み木の枝で擬装して隠れたまま、燃え燻る国有林を睨みながら神経のすり減る時間を過ごした。あの輸送機のパイロットにちょっと機転や注意力が具わっていたなら、俺たちを発見していることは先ず間違いない――問題は、その報告を受けたものが敵だった場合、どう考えてどう動くか――
「何があるか分からん……接近してくるものが無いか、細心の注意を払って警戒しよう。やれやれだな」
およそ四時間の間、俺たちは耐えた。
* * *
そして、CC-37が来た。
緑がかった青い夕空の下、設置した四本の
「よし、胃に悪い任務だったが、これでどうやら終わり……」
そう、言いかけた時。ガツン、と殴られたような衝撃がドッケンの機体に加わった。
「ぬわッ!?」
制御卓にアラートが出る。30ミリカービンが
カメラで機体の周辺を確認すると――カービンは手首ごと脱落して、脚部正面装甲の上に引っかかっていた。
〈敵襲だ! どうやら最悪のタイミングで来やがったな……散開! 退避しろサルワタリ、俺が引きつける!〉
「すまん! ――ああっと、CC-37のパイロットへ! いったん上空へ逃げてくれ!!」
〈は、はい。サルワタリさん……!!〉
パイロットはマッケイだった。荒事は苦手なのに、またぞろ志願してきてくれているらしい。せっかく拾った命だから、大事にしてほしいのだが――
瞬間、無気味な予感を覚えて車体底部のホバーノズルを全開に吹かす。戦車に似合わぬ浮遊感と共に脇へ十メートルほど跳びのいたその後を、機関砲弾の連射が舐めた――
30ミリガトリングだ。攻撃が来た方向を確認すると、丘陵の陰から姿を現した二機の黒いランベルトと一機のメルカトルが、俺たちに砲火を浴びせようとしていた。
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