第9話 小悪魔女子
殺風景なリビング。
対面には栞里。
「めぇーちゃんにそんな過去があったなんて……」
俺が今日あったことを話すと、栞里はしんみりとした顔になった。
心なしか、刺繍のうさぎもしんみりとしてる。
(って今そんなことどうでもいい)
「それで聞くんだけど、なんで栞里は俺の家に勝手に入ってたの?」
「え? だってこの前合鍵渡してくれたじゃん」
「それはお互いなんかあったときに助け合おうねってやつで、家に勝手に入った理由にはならないんじゃ?」
「ちっちっちっ。今のは冗談。実は今日あったことを報告に来たの」
「今日あったことの報告ってひかりちゃん関係のこと?」
「うん」
これは、さすが人と仲良くなるおばけの栞里と言うべきなのか。
「じゃあ早速報告ってやつを聞かせてもらおうかな」
栞里は今日あったことを、まるで映画のように臨場感のある説明した。
何箇所か無駄な自慢話があったので簡単にまとめるとこうだ。
『ひかりちゃんと接触してある程度仲良くなることができて、なにか裏のある女だということを掴んだ』
「ちなみにその裏がある女だっていう確証は?」
「女の勘! ……って言うとバカにされそうだし、被害にあった人から直接話を聞いたの」
「被害者ってまさか」
「そう。その最初話してた噂のやつ」
『男のことを騙して金を巻き上げてる』
正直こんな噂、嫉妬した人たちが勝手に作ったものだと思ってた。
芽愛ちゃんと同じく、ひかりちゃんも人のことを騙してるとは……。
(俺はずっと騙されっぱなしだったのか)
となると、ひかりちゃんは天のことを騙してたところ、芽愛ちゃんに邪魔されたってことか?
(協力して俺と天のことを騙したって線もあるな)
ひかりちゃんもそっち側の人間だと、一気にいろんなパターンが浮かんてくる。
栞里もパターンが無限に浮かんできているのか、眉間にしわを寄せている。
「どういうふうに褒めてもらおうかな」
うん。全然違うこと考えてたわ。
「いつものやつやるから隣来て」
「はいはいはぁ〜い」
尻尾をブンブン振った栞里はすぐ隣に来て、頭を向けてきた。
栞里が俺に褒めてもらうときにすること。
それは、頭ナデナデだ。
「ん〜。かずちゃんの手久しぶりぃ……」
栞里は液体のようにとけている。
(そういやこれするのって大学に入ってからは初めてか)
思い返せば、なんで俺は栞里のことを褒めるとき当たり前のように頭ナデナデしてるんだろう?
(なんだったっけ)
すぐ思い出せないくらい昔からずっとナデナデしてる。
「はいここまで」
「むぅけち。けちけちけち!」
「そんな怒るなよ。今日は俺に報告して、褒めてほしいから我が家に来たわけじゃないだろ?」
「来たわけじゃない!」
液体だった栞里が一瞬で個体になった。
「いや褒めてほしいから来たかも」
一瞬で液体に戻った。
「まあいいや。それより一緒に考えてほしいことあるんだけど、ひかりちゃんが悪女だったとして俺のことを二人がけで罠にハメたとかそういうことってあると思う?」
「なんでかずちゃんのことを罠にハメるの?」
「それはわかんないけど……」
「今回のは多分かずちゃんは巻き込まれただけでしょ。二人の悪女が何をしたいのかなんてわかんないよぉ〜……。そういえば、天ちゃんにはなにか聞いたの?」
「聞いてない。というか聞ける状況じゃない」
「そっか。……あーあ。栞里が天ちゃんに嫌われてなったらハニートラップで堕としてたのに」
「もしそんな未来があったのなら今頃彼氏の一人くら」
「よし! 天ちゃんには何もしないで、今度はひぃーちゃんに探りを入れよう!」
この異様に元気な声……嫌な予感がする。
「探りを入れるのは栞里じゃなくてかずちゃんね」
「勝手に決」
「方法は一日デートってことで」
言ってやったぞと顔に書いてある。
なぜ自信満々なんだろう。
(演技なのかもしれないけどひかりちゃんは天のことが好きなんだし、デートなんて流石に無理がある)
でも栞里はそれを踏まえて言っ……たのか?
栞里のことだ。言ってない可能性は十分にある。
「ちなみになんでデート?」
「女の子の本性を暴きたいのなら二人っきりでデートをするのがいいかなぁ〜って。……栞里から言ったんだけど、かずちゃんが女の子とデートするなんて嫌なんだからね? これはひぃーちゃんのことを探るためなんだから」
「想ってる彼氏がいる女性とデートをしてこいって……。栞里も中々ク、ズ女だね」
「栞里がやろうと思ったら半年はかかるから仕方ないことなの!」
悲しそうな顔と怒った顔を混ぜた変顔としか言えない顔の栞里。
さっきまで液体だった人とは思えない。
(二人っきりのときだけとろける栞里みたいに、人って隠し事が多い)
そう考えると一番関わりがある俺が、ひかりちゃんとデートをするってのは一番良い案のかもしれない。
(良心が傷つくけど、傷つくだけで終わるのなら我慢すればいいだけか)
もし天に怒られたら、それは正気に戻ったときだ。
ハッピーエンド後ならどれだけ怒られたって痛くも痒くもない。
「やるか。デート」
「そうこなくっちゃ」
「それで、どういう感じにデートに誘うかなんだけど……」
「あっもう誘っておいたよ」
「は!?」
(まじかよ)
栞里が右手に持ってるのは俺のスマホ。
見せてきた画面には、『明日、俺と一緒にデート行きませんか?』と送信されたメッセージ。
(スマホのロック番号を知ってるのは置いといて、メッセージの内容がいくらなんでも直球すぎる)
栞里はひかりちゃんのことを知っている。
その上で、このデートの誘い。
相手のことを配慮してないことにおいて、今全世界で一番優れてる。
いやでも、栞里は美女だが彼氏いない=年齢。
(相手のことを配慮してないメッセージを送ったって仕方ないことか)
「なんで哀れる目を向けられてるんだろ」
「知らないほうがいいよ」
素っ頓狂な顔をしているが、栞里も俺には見せない裏の姿ってのがあるんだろうな。
全く想像できない。でも、芽愛ちゃんも最初は想像できなかった。
裏の顔が誰しもあるってのは分かるんだけど……怖い。
「おっデートオッケーだって。日程は明後日。かずちゃん行けるよね?」
「ああ。もちろん行ける……え」
(あのひかりちゃんがオッケーだと?)
おかしい。
ひかりちゃんは一途のはず。
(明後日。デートで見極めないと)
もしクで始まってズで終わる、俺が大嫌いな人間だったときは覚悟を決めよう。
友人の彼女に頼まれて寝取ったことにしてざまぁされる予定だったが、俺の彼女が友人に寝取られてた。 でずな @Dezuna
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