第3話 今世の目標は穏やかな老後に決定
一作目ゲームの、ヒロインに立場を奪われるライバル令嬢が私で、ヒロインはパンセリノス・ピラズモス男爵令嬢だった。彼女が新聖女として認められ真の聖女として成り上がり、作中男性キャラクターと恋愛するのがゲーム内容だ。
私はあくまで前任聖女という立場でしか出てこない。あれ、これどこのテンプレ?
「てかイリニさんもリーサさんも私の記憶見たなら分かるでしょ? ファンディスクの保管を」
「まあ」
「そうなんだけど」
前任聖女についても深堀りされたファンディスクは婚約破棄された私が生前いかに努力をしていたかが描かれていた。
ゲームの私も現実の私が歩んだ人生通り、多くの公務をこなし、王太子妃としての勉強を進め、聖女として慰問や神殿からの祈るなど、多伎に渡る活動をこなしていた。
ピラズモス男爵令嬢へのいじめと呼ばれるものも、自分が退いた時の教育や淑女としての苦言だった。
激務をこなし、ろくでもない男(=王太子殿下)のために尽くしたにも関わらず、ヒロインへのいじめを理由にその男から婚約破棄を言い渡され死んだ私は、ゲームをプレイしていたファンから一定の評価を得たようだった。私を蔑み罵っていたからか王太子殿下の評価は下がったけど予定調和ですよと
「というか、イリニさんやばくないですか? 見たついでに分かっちゃいましたけど、あのイケメンとんでもない祝福かましていきましたよ」
「そうね」
さんづけいらないわと聖に伝える。聖がうほっと奇天烈な声を上げていたけど無視した。
ちなみに聖の言うイケメンとは精霊王のことだ。
「リーサは今回の祝福について、どういう意図があったと思う?」
リーサは精霊王との関わりが深い。勇者として世界中を飛び回っていた時に出会ったのが精霊王で、彼はまだ精霊の王になったばかりだった。精霊たちも好き勝手している時代で、人間に攻撃するようなものもいた。それをリーサと一緒に鎮めて、共存するというラインまでもっていったのが二人のストーリーだ。
「優しい奴だからな。見てられなかったからチャンスを与えたというのは本音だろう。それにしたって、今のイリニは歴代聖女の中でも最強だな。少し思うだけで世界が傾く」
「それかなりきついのにね」
聖女は祈りや願いが具現化する力を持つ。だから私がこの国を守りたいという祈りが国を覆う結界として現れていた。
けど今はどうか。国一つに結界を張るなんてレベルじゃない。以前とは比にならない力を持っていることが分かってしまった。落ち込んだ時に願いがよくないものなら、それも叶ってしまうのが今の私の力の強さだ。気を付けないといけない。
「各能力の名前は私が決めますっ」
「ど、どうぞ?」
「ヒジリ、そこなのか?」
「大事なとこです!」
聖の鼻息が荒くなる。
彼女のよく分からない言葉が今は全部分かるからこそ、祝福に名前を付ける必要があるとはちょっと思えなかった。
「まあお二人の中身見ながら考えてはいたんですよ。今軽く説明しますね! モードを使う事にしましたっ」
「仕事が早い」
俺つえええモード→怒る。大剣が出てきて物理攻撃+魔法属性一つつく。
魔王モード→怒る二つ目。誰かを思って怒る時に出る。周囲に大きな魔法が起こる。
シェフモード→空腹。美味しいご飯を作りたいと思う時も出る。三ツ星シェフ張りのコース料理が調理可能。
マタギモード→上記肉を欲する場合。自分で料理したいけど食材を自分で調達したい時に出る。ワイルドな料理を食べたい時も出現可能性高し。
釣りモード→上記魚の場合。いい魚とりたいと思う時も出る。
パティシエモード→上記スイーツの場合。三ツ星パティシエ張りのお菓子が作れる。
引きこもりモード→一人になりたい。大概恥ずかしさも付随している。
キャンプモード→一人になりたい+解放感欲しい時。引きこもりモードの見る場所が外に向けられた場合に起こる。
暴力女子キャラモード→恥ずかしさ限界値突破。物理攻撃が強くなるが剣は出ない。小突くだけで人が吹っ飛ぶ強さを持つ。
恋のライバルモード→焼きもちやく時。好きな人が自分以外の女性と近しい時、その対象の二人が物理的に触れなくなる。
ラッキースケベモード→人恋しい時。偶発的にえっちな状況を作り上げ、淋しい時に起きる。
「ちょっと待って」
「え、まだ続きますよ?!」
「なにラッキースケベって」
内容もひどい。淋しくて人恋しいのにえっちな状況ができるってどういうことなの。
「イリニにとってラッキーですよね? 淋しい時人肌に触れられるんですよ? 安心できるわ~な感じを味わえます」
「恥ずかしいこと言わないで」
「あ、スケベは不可抗力ですね。昭和の少年誌では当たり前ですし、触れる為のきっかけにすぎません。私としては推しのモードです」
推さないでよ。
にしても困った。わざわざえっちな要素をいれなくてもいいのに。
「スケベ要素ないと淋しいって感情が解消できないと思ったんじゃないですか? 他人事みたいに言うのもなんですが」
「なんでよ……抱きしめてもらえるだけの祝福ならよかったのに」
「そういえば、孤独が過ぎたと言っていたな」
リーサが言うには精霊王が私に対して一番気にかけているのが淋しいという感情だというわけだ。だから強引に人肌に触れさせて淋しさが解消できるような内容にしてきたと。
なかなかひどい。
「当の精霊王は反応ないですし、ラッキースケベを受け入れてもらうしかないですね!」
残念ですと言う割にすごく嬉しそうな
「今すぐ聖女卒業したい……」
力を弱めてほしい。いっそなくしてほしい。いやむしろラッキースケベだけでもどうにかしてほしい。
ついさっき色々無視されて逃げられたから今はもう難しいだろう。今だって、この空間で聞こえないわけないんだから、わざと無視している。
聖女もののゲームのテンプレの如く、聖女の力を剥奪してくれてよかったのに。
「まあこれでイリニの命を脅かす敵はいなくなるな」
「むしろ私が世界を脅かす存在になるし」
そういえば、御先祖様は凛々しいクール系男前女子だからギャップがいい感じで、聖はすらっと背が高くてモデル体型の割に、見た目童顔で所作が小振りだからまたまたギャップで可愛い。前世って言っても見た目似ていることはないのね。
「こうなると耐久戦か?」
「うん。精霊王が出てくるまで留まり続ける」
「けどパノキカト国内は難しいだろう」
精霊王とは神殿の力が集まる場所で啓示を受ける。
神殿に突撃し精霊王引きずり出して、聖女の力剥奪の交渉をしたいところだけど、現実世界に戻った時の婚約破棄の騒動を考えると自国パノキカトには留まれないだろう。
「国境線狙うのは?」
「成程。しかし今のイリニがいくら強い力を持っていても転移の魔法は使えないぞ。破棄を無視するわけではないんだろう?」
頷く。
王太子殿下からの婚約破棄は喜んで受け入れる。その末の無駄死にはしない。
なので社交場で被害なく退く術を手に入れよう。
「癪だけど精霊王の言う仲間をゲットしようかなと」
「ああ」
「いいですね!」
「一時的な仲間だけど」
思ったことが伝わるからすごい。
正直、破棄を宣言されてすぐに私が祈れば、聖女の魔法が私を守ってくれるだろう。
けど、それは避けたい。最善はぱっと消えて、そのまま国境に留まり、干渉を受けず待機する。のち、精霊王と接触し聖女の力を全て返して、私はそのまま東の辺境へ行って余生を過ごすエンドを目指したい。
「長生きして、自由に生きる。穏やかな老後もゲット、これが三回目の私の人生目標! テンプレだけど!」
「ああ、協力しよう」
「私もです!」
それは三人に共通する願いでもあった。
長く生きて静かにすごして穏やかな死を迎える。
いずれも叶えられなかった私たちのもう一度のチャレンジが、スタートした。
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