第2話 祝福と二人の前世
「三人寄ればなんとかってやつ」
「いえ、その……」
「なんで? これ正解だと思うけど?」
小首を傾げる精霊王。
見た目は男性だけど、やっぱり人ではない。私の考えていることが見えているんだもの。
「私が生きたいと思ったからですか?」
「うん」
一度目はなんでという疑問しかわかず、二度目はもっと長く生きたいと思って死んだ。
その気持ちを目の前の王は汲んでくれた。
「祝福も追加しとくね。パワーアップってやつ」
「ぱわーあっぷ?」
何気なくすごいことを言っている。
祝福を重ねがけ? 現存する魔法使いよりも強くなるのでは?
「君の祈りや願いが素早く強力に反映するようにしたよ」
「それは具体的に?」
「んと、君の隠す癖を補えるように、気持ちがすぐに形として反映するよ! 誰が見ても分かるように!」
「それって、かなり厄介なんじゃ……」
満面の笑みで精霊王が遠ざかっていく。
説明省いて消える気ね。私は聖女なんて称号も力もいらないから、すぐに取り消してほしい。
「君ならすぐ分かるよ。なんていったって聖女だからね」
「いえ、逆に聖女の力なくしてほしいんですけど」
「せっかく祝福したんだから満喫してよ」
「いいえ、私聖女辞めたいんですって」
「うん、楽しんでね!」
雑な挙句話聞いてくれないし。笑顔で誤魔化して完全に消える。なんて存在だろう。助けてくれたことは感謝してるけど、祝福の追加に繋げる必要はない。
精霊王の存在が感じられなくなった。出てくる気はなさそう。
溜息一つ、振り向いて二人の前世と対峙した。
「自己紹介からします?」
「そうだな」
「是非! お二人のことは知ってますけど!」
さて、前世一人目はよく知る女性だ。
リーサ・アギオス。最初の聖女で、姓から分かる通り、私の御先祖様だ。肖像画も残っているし、貴族院の勉強でも出てくる有名人で、世界を股にかけ、勇者として混沌とした地を纏めあげたと言われている。
「ええと、貴方は」
もう一人に視線を動かすと、それはもう幸せそうな満面の笑みで立つ女性がいた。服装も見た目もこの地域の人間ではないと分かる。
「シリーズ二つのヒロイン並ぶとか壮観ですわあ」
不思議な言葉を使うこの女性は異世界の人物だと言う。名をヒジリ・ササゲ、ニホンジン。
彼女の話は非常に興味深かった。私と御先祖様の存在がゲームという存在になっていると言う。私とご先祖様は御伽話の登場人物というわけだ。
熱く語ろうとするヒジリに対して、リーサが一つの提案をしてきた。
「ここにいるなら互いの記憶を見た方が手っ取り早くないか?」
「ああ、確かに」
「どういうことです?」
私はまだ私の生きる世界に戻っていない。その途中の仮称宇宙にいる。ここは恐らく意識の世界だ。となると、互いに触れ合えば、それぞれの記憶や知識を見ることができるはず。
「なにそれうける。ゲームやファンタジー漫画のテンプレじゃないですか!」
「うん?」
納得してくれたなら構わないけれど、言葉がよく分からない。
まあ見ればいいか。見てしまえば、ヒジリの言うことが分かる。
「ただ繋がると混じりあってしまうから、人格をどうするか考えた方がいいだろう」
「混じるってどういうことですか?」
「私とヒジリはイリニの前世、つまり同一人物と言っていい。下手に触れ合うと記憶と一緒に感情や人格が引っ張られる。混ざってしまうんだよ」
御先祖様よく知ってるな。それを言うとリーサは苦笑した。
「前に記憶そのまま転生した時に、人格が私と身体の持ち主でしょっちゅう切り替わってな。割と面倒なことになりがちだった」
「なるほど」
御先祖様転生経験ありなんだ。転生後の記憶持ちってすごい。
「なら、人格統合しちゃいましょう」
「いいのか?」
「そうですよ。人格はイリニさんでよいのでは? イリニさんの身体だし、私たちおまけだし」
「私、生まれ変わりたくて。誰にも惑わされない自分の芯がある女性になりたい。だから、いっそ性格も変わるぐらいがいいかなって」
婚約破棄なんかでおろおろしない格好良い女性になる。
自由で自分の気持ちに正直で、笑って誤魔化すこともしないで、やりたいことをやって幸せを感じて時を過ごす。これからくる三回目が最高に見えるように。
「そういうことなら力になろう」
「んー、私の知識見る時点でアウトな気もしますが、お役に立てるなら是非」
そうして私たちは手を取り合った。三人で輪になれば急速に訪れる記憶、知識、それぞれの思い。
「……すごい」
「というか、みんな刺されて死んでるとか笑えますね」
「だからこその前世なのだろう」
三人とも何かしらの刃にかかっている。
御先祖様は魔物と人の間で起きた諍いを止めようとして裏切り者と叫ばれ夫に斬られた。聖は毎日残業で頑張っていたある日、通り魔に刺されている。
この死に方が私たちを繋いでいるもの?
「というか、私ヒロインじゃなくて当て馬じゃない」
「確かにヒジリがしていたゲームでは、イリニは主役ではなかったな」
「いや私にとってヒロインですので」
そんなきりっとした顔向けられても。
でもこのゲームの記憶で、私がどんなに努力しても婚約破棄から逃れられないことは分かった。ならもうやることは決まっている。
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