第4話 エピローグ
***
「『――こうして兄王子と聖女は悪い悪魔と戦い奮闘するも殺されてしまいました。完』って、ハインツ様、この終わり方はどうしても納得がいきません。やっぱり物語はハッピーエンドがいいかと思うのです」
「そうかな? たまには悲哀って言うのも悪くないと思うけれど?」
自分たちの経験談をさらっとバッドエンドにするのは酷くないだろうか。そう不満を言いながら彼の仕事机に淹れ立てのお茶を出した。
「ありがとう、ユズのお茶は美味しいよね」
「お褒め頂き光栄です……ふふっ」
私とハインツ様はグランツ王国から亡命して聖王国フォルリーで暮らしている。あの日、現れた黒服は私を狙った刺客で、すぐさまハインツ様が魔法で返り討ちにして大事に至らなかったらしい。このまま悠長に婚約破棄を引き延ばすのは危険とハインツ様は判断して一緒に亡命した。
というか私が意識を取り戻したら聖王国フォルリーに居たのだから驚いたものだ。貴重な転移魔法を使ったらしく、王族の緊急避難用だとか。
現在は一軒家を借りて私は家のことを、ハインツ様は本の出版やら、本の手入れなどの仕事を請け負っているので、時々古文書などの解読などは手伝ったりしている。
私が考えていたものすと少し違うが悪くない。
半年過ぎた頃には生活も落ち着いてきて、驚くほど穏やかで充実した日々が続いている。
「……それにしても本当に国に戻らなくていいのですか?」
「もちろん。ユズと一緒にいることが私の願いだったから、今とても幸せだよ」
「うっ……」
私とハインツ様との関係は同居人であり、友人以上恋人未満と言ったところだ。ヘルムート殿下との一件もあり恋愛に気持ちが向かず、ハインツ様に告げたところ「ではユズがその気になるまで口説くとしましょう」と言い返した。
あまりにもサラッというので、そのイケメンぶりに即落ちしそうだ。
「ユズが少しでも私を受け入れてくれたら、もっと幸せだけれど」
そう言って髪を一房触れて、キスを落とす。
恋愛経験の免疫がない私には後どのくらい耐えられるか不明だ。それでもヘルムート殿下の時の反省を生かして自分の気持ちは少しずつでも良いので伝えていこう、そう心に誓った。
「それに
「え?」
「ううん、なんでもない」
「……ハインツ様、もう少しだけ待って下さい」
「もちろん、急がないよ」
ハインツ様は柔らかな眼差しで私を見返す。
最初に出会った頃よりも笑顔が柔らかくなったのは気のせいじゃないと思いたい。
「や、やっぱりちょっと好きに――にはなっています」
「本当かい!?」
ハインツ様は喜びのあまり私を抱き寄せた。
男の人としては華奢な方だと思っていたがすっぽりと腕の中に収まる。
もしかしたら自分は惚れやすいのかもしれない。
私が恋に落ちるまで、あと――秒だろうか?
落第聖女は二人の王子の偏愛に翻弄される 〜言葉通り婚約破棄したのに 二人の王子が手放してくれません!〜 あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定 @honran05
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