第4話 最終章
結局の所、事務所としての見解は、
報道された事は全面的に認める。
ただ、相手の男性は一般の方なので公表はしない。
と言うことを根本として、
後はどのようにヒマリからの言葉を公の場で出すかだ。
現在、ファンからの裏切られた感は強くて
ネットは誹謗中傷で荒れている。
今さら会見につむぎを引っ張り出しても
言葉の暴力を受けるだけになりかねない。
第一に、本人は芸能界引退を決めている。
そこで慶子から一案が提案された。
それは会見をせず、公式ブログは停止して、
エンジェルファンタジーの
ネット上の公式チャンネルで、
今回世間を騒がせてしまった事に対しての謝罪をする。
それについてはエンジェルファンタジーの
メンバーに協力を求める。
リーダーと新センターをメインした
グループとしての謝罪と、
今後の活動についての説明。
その後にヒカリ本人から短い言葉での謝罪。
それですべての事を終わらせること。
この案には社長も同意した。
「それで行こう。別に犯罪を犯したわけでもない。
誰かを陥れたわけでもない。
グループで彼女を守るようにしての説明なら、
今後のエンジェルスファンタジーと言うグループを、
より結束して頑張っていきます。と言うことで、
比較的きれいな終わり方ができると思う。
団結・結束・友情が表に出るような演出で頼む。」
と慶子に力強い視線を送り社長が言った。
ネットにもっている番組エンジェルファンタジーの
エンジェルガーデンでは、
いつものバラエティ色を消し
シンプルな背景の中で新曲の衣装でメンバーが並ぶ。
その真ん中には清楚なワンピースのヒマリがいる。
やがて周りのライトは落とされて
メンバーだけにライトが当たる。
そしてリーダーの吉岡理香が一歩前に進み丁寧に、
そして深々とお辞儀してカメラのレンズを直視した。
結果的に効果は望むほどにはならなかった。
ヒマリへのバッシングは消えるわけではない。
ただ、グループとしての団結を印象付けることには
多少なりとも貢献したかも知れない。
後日のある日メンバーは、
衣装姿でホームグランドとなる
エンジェルガーデン用のステージで、
収録を撮ろうとしているところだった。
その場にヒマリも私服でいる。
ヒマリは皆に向かって数歩下がった。
その様子に気づいて皆が一斉にヒマリを見た。
その顔は誰もが笑顔だった。
「みんなごめんなさい。ご迷惑かけてすいませんでした。
でも、私を心より受け入れてくれて、
昨日のエンジェルガーデンに加えてくれてありがとう。」
ヒマリが深々と長く頭を下げた。
そして、頭を上げた時の顔は涙で一杯だった。
「こんな私だけど、これからもみんなのこと
テレビの前で心から応援してるね。」
そういうとメンバーいち長身で
スタイルの良い吉岡理香がヒマリに近づいた。
そして、何も言葉を発さずにヒマリを力強く抱きしめ
背中を優しく数度優しく撫でた。
吉岡理香が再び後ろの位置に戻ると、
次は会田メグミが歩み出てヒマリの手を両手で包みこむ。
「本当はヒマリのセンターを待っていた。
そして、競い合いたかった。
けど、あなたはあなたの道を進んだと思う。
私も負けないからね。」
メグミの言葉にヒマリは大きく頷て二人はハグし合った。
それから三か月には新体制としてのグループを再開し、
また、新メンバーを募集することとなった。
グループとして少しでも軌道修正してリスタートできたのは、
慶子の手腕によるところが大きかった。
そして、ヒマリは東京まで
車で迎えにきてくれているハルトの車で
自分の街へ帰っていった。
★長いエピローグ★
「メグミ、今夜は大丈夫か?」
人気のない廊下の隅で河田がスマホで電話をしている。
ガラス越しに見えている別棟ビルの廊下で
こっちを見ているのはメグミだ。
「うん、大丈夫だよ。
そうだ、今度私で進めてくれていた
ドラマの配役はどうなっているの?」
「それの話も含めて会おうか。」
あれっ?と人影が動いたように思って見たが
気のせいだったようだ。
メグミが小首を傾げた。
これまでの事は上手くいっていると
メグミは思っていた。
メグミはヒマリが不在中に
どうしてもセンターを奪いとりたかった。
だから、以前から
自分にモーションを掛けてきていた
河田の誘いに乗り関係を持った。
それからは河田はメグミに夢中になった。
河田は事務所の役員の1人で、
何かと自分に有利な情報を流してくれている。
それがあるから手を切ることはまだ考えていない。
ただ、奥さんと別れてメグミと
暮らしたいとか言いだしてきている。
それがうざくて、たまらなくなっていた。
だが、今は我慢だ。
いつまでも今のグループになんて居られない。
早く女優として地盤を固めておきたいのだ。
「遅いじゃないか。」
河田はやっときたメグミに
近づくと後ろから抱きついた。
「ごめんなさい。
ちょっと打ち合わせが長引いてしまって。」
メグミはメグミの腕を解くとベッドに座った。
河田はすぐに近寄ると
そのままメグミを押し倒すと露骨に求めたきた。
メグミは抵抗せずされるがままになり
目を閉じた。
ベッドが波を打ち
闇の中で二人は溶けあった。
エンジェルファンタジーは以前程ではないが、
どうにか人気を持ち直した。
会田メグミの童顔だけど、
いかにも女性的でスタイルの良い体のラインが、
セクシーで男性ファンを増やし、また、
可愛さとセクシーさの魅力から女性ファンも近頃は増えだした。
その魅力により人気時間枠での
新しいドラマへ出演が決まった。
原作は今若い世代に
絶大な人気を誇る漫画家作品だけに、
漫画ファンからも期待を持たれていた。
メグミは今の人気を追い風に
ヒロイン役を手に入れた。
それには少なからず河田の力もあった。
メグミはドラマ発表記者会見の中笑顔で対応し、
やっと、ここまで来れたなと感じながら、
インタビューに喜々として応える。
「このドラマは私自身が原作のファンです。
この物語のヒロインにはとても思い入れがあるので、
監督、スタッフ、それに出演される諸先輩からの
ご指導やアドバイスを真摯にお聞きして
少しでも成功へ貢献させて頂きたく思います。」
メグミは頬を高揚させながらそつなく答えた。
ドラマ制作発表会見も無事に終わり控え室に戻ると
メグミはソファにドカッと座った。
バックからマルボロを取り出すと口にくわえ、
なれた手つきで火をつけた。
ようやくここまできた。
以前、まわりでは可愛いと評判で
メグミ自身もその気になって、
アイドルオーディションを
受けて回ったがことごとく落ちていた。
それでも諦めるわけにはいかなかった。
メグミの家はかなり貧乏だった。
父は昔から体が弱く、
それでも生活を支えようと働いてくれたが、
無理をしたら体を壊し入退院を繰り返す状態になった。
母は母で元はお嬢様育ちで世間で生きるためのスキルを、
何も身に付けないまま父と恋に落ち駆け落ちした。
父に代わって母が働くにはあまりにもポンコツで
すぐにクビになるような人だった。
それを見てきたメグミは
そんな両親に良い暮らしをさせたいと思って、
自分にできるお金稼ぎとしてアイドルを目指したのだ。
見た目だけしか取り柄がない自分はアイドルになるか、
キャバクラに行くか、しかないと思っていた。
エンジェルファンタジーはメグミにとって
ギリギリのところだった。
メグミが合格できた理由は
単純のものだった。
役員を務める河田のタイプとして
どストライクだったのだ。
だから強く推してくれた
お陰で合格を手にできたのだ。
それでも当時はまだメグミは
18と言う事もあり
河田は手を出さず、
親切な大人として接し、
事務所での自分の力をアピールし続け
大人になるのを待っていたのだ。
だからメグミが20歳になった途端、
露骨に男女関係を求める言動が始まった。
メグミはメグミで男女の関係を持てば、
センターポジションも手に入るかも知れないと思った。
センターになりたい訳じゃない。
その先にある目的、
つまり人気女優となり高額ギャラを
手に入れ両親と豪邸に住みたいのだ。
ただ、これは駆け引きだ。
そう簡単に河田に落ちるわけにはいかない。
だから、ヒマリが休業したタイミングで
河田を受け入れた。
その結果、グループのセンターになり、
今、話題の人気ドラマのヒロインを手に入れたのだ。
「葵、やはりおまえが一番だ。
あいつとは別れる、一緒に暮らそう。」
河田はベッドでそう言った。
いつも言うセリフ。
メグミはウンザリしていた。
河田は金持ち令嬢の奥さんと別れる筈はない。
ある晩のことだった。
それがあったのは。
部屋にエンジェルファンタジーの
新曲着信音が響き渡る。
メグミはベットから手を伸ばし
ノールックで床にある筈のスマホを拾い上げ電話に出た。
「もしもし...」
寝起きのかすれた声でメグミは言った。
「あ、メグミ!?」
大きな声が突然耳に飛び込んできた。
声の主は秋山慶子が事務所を退社した後、
サブからチーフマネージャーになった成田スグルだった。
「どうしたんですか?いきなり大きな声で。」
めんどくさそうにメグミが答える。
「何言ってるんだ!早くスマホでいいから芸能ニュース見ろ!」
何慌ててるんだろ。
ブラウザアプリをタップして情報サイトを開いた。
メグミはぎょっとした。
「な、何...これ!」
そこにはメグミと河田の密会不倫現場の
写真が幾枚もアップされていた。
メグミはその記事の内容が
ほぼ正確な事が書かれている事に言葉を無くした。
(ど、どうしてバレたの。細心の注意をしていたのに。
あの人側からバレたのかな。)
スピーカーにしたスマホから
成田が事実確認をしたから事務所に来るようにと
言っている。
自分の味方は河田しかいない。
その河田が自分と矢面にいる以上
誰も頼れない。
日頃から河田が自分以外の人間と
関わらせないようにしていたためだ。
メグミは今出たらきっと週刊誌の連中が
張っているだろうからすぐにいけないと答えた。
それならこちらから車を用意すると言うことで
自宅マンションの駐車場についたら
連絡すると言って成田は電話を切った。
電話の後メグミはベッドに寝てまま天井を見た。
「ここで、私...終わりかな。」
そういうと力なくメグミは笑った。
メグミはメディアで叩かれ過ぎて、
すでにアイドル活動どころではなくなっていた。
それどころかエンジェルファンタジー自体の
活動も難しくなった。
それまで決まっていた
スケジュールは白紙になっている。
アイドルの妊娠、アイドルの不倫が続いては、
ファンで有る無し関わらず不快に思う人は、
あまりにも多すぎてスポンサーは全て、
エンジェルファンタジーの出演にNGを出した。
エンジェルファンタジーの所属事務所は、
当然、事態の大きさを深刻に捉え決断した。
それはグループの活動の終焉だった。
スキャンダルによる活動終了のため、
ラストライブはなく、エンジェルファンタジー動画サイトチャンネルに、
事務所責任者が登場して謝罪をする事で全てが終わった。
グループメンバーは散り散りになり、一部を残して芸能界から消えた。
メグミはこれからの事を
ぼんやりと思っていると
スマホに電話の着信音が鳴る。
スマホ画面を確認すると
元メンバー松村ユイナだった。
「もしもし...どうしたの?」
「どう?その後?」
ユイナの声は至って普通だ。
「別に、当然家に引きこもっているわよ。」
メグミは淡々とした口調で言う。
「相変わらずの感じだね。
あなたに落ち込むとか似合わないけどね。」
「そんな事を言うために電話してきたの?」
「ふふ、だよね。理由を言うわ。私なの。」
「何が?」
「あなたみたいな性悪でも気づけないのね。」
「わざわざ私を怒らせようと電話してきたの。
グループを壊した腹いせに。」
「ああ、グループね。あれはいいの。
どうせ、遅かれ早かれあれは終わっていたんだから。
だって、スキャンダルはメグミや
ヒマリだけじゃないと思うから。
バレるかバレないかだけの問題よ。」
ユイナはサバサバした言い方をした。
「ただ、言ってもアタシら
グループのメンバーどうしじゃん。
だから、メンバー売ったら駄目でしょ。」
メグミは相槌さえ打てない。
「あんたでしょ。ヒマリを三流週刊誌に売ったの。
色々あんたの事見てたらわかったよ。
ヒマリを見る目、ライバルとかではなく、
憎しみの相手を見る様だったし。」
「それだけで私になるの?」
呆れた声でメグミが答える。
「河田って男のアンタに対する視線が変だったし、
普通なら引くのにアンタは違った。
それで調べさせたら、
これまで何度もラブホだもんね。」
「だったらどうなの?」
「河田は内部の事詳しいからさ、
ヒマリの事も。
だから、アンタがした事を私もしたの。
同じ三流週刊誌に売った。」
「なんでそんな事。
私あなたとはメンバーであることくらいしか接点ないでしょ。」
「ええそうね。アンタとはね。
けど、アタシ同じメンバーだけどヒマリを
初めて見た時から一目惚れでファンになったの。
そんな私の推しをアンタはリークした。
だから、アイドルとしてのアンタを潰してあげたの。
でも、アンタの事だから、
別の方法で生き返るんだよねゾンビみたいに。」
ユイナは言うだけ言って電話を切った。
以前のメグミならそんな好きかってに言わせない。
だが、今はどうでもいい。
そんな事よりこれからだ。
ギャバクラ、風俗、ソープランド。
アイドルをできなくなり金を稼ぐのに、
1番稼げるものと言ったらそんな物しか浮かばない。
「河田のおっちゃん何してんだろう。」
河田は不倫が暴露されて姿を隠した。
あれから一度も会ってない。
好きではなかったけど、
体の相性は良かった。
社長の娘と結婚したわけだから、
全て失って何処へ隠れたんだろう。
メグミが自室に籠って1週間が過ぎていた。
スマホで夜の仕事探しをしていると
その検索サイトの上に被さって
電話の画面が乗っかってくる。
「もしもしメグミ。今何してんの?」
しばらく姿を隠していた河田の声は相変わらずのものだ。
「それってこっちが聞きたいよ。
私なんて家に閉じこもってただけ。」
「そうか...俺はアジアを旅してた。
次何しようかってね。
それで日本に帰った時、
まだメグミが何もせずに
1人でいるなら声をかけようってね。」
「声かけてどうするの?
溜まった分の性処理なんて嫌だかんね。」
メグミが怪訝な声で言うと、
河田は大笑いをした。
その笑い声は以前のままだと思うと
何故かメグミはほっとした。
「メグミ...動画チャンネルやらない?」
「ああアイドル辞めた子とかもやってるもんね。」
「俺心配してたんだ。
女の子によってはAVに流れる子もいるだろ。
あれやだなぁって思ってた。」
この人何言ってんの。
随分年の離れた私の体をさんざん楽しんでいたくせに。
とメグミは内心あきれていた。
「AVは考えてなかったな。
動画チャンネル?いいけど。
今取り敢えずやることないし、
それに生活のために働かないといけないから。」
メグミは悪びれることなく言った。
もう、普通にテレビ業界に戻ることはかなり難しい。
かと言って一般企業で働くにも雇われないだろう。
第一に得られる収入がメグミにとっては魅力が無さ過ぎる。
結局、頭に浮かぶのはキャバ嬢・風俗などだった。
そこで頑張ればどうにか親への仕送りもできるし、
これまでの自分の体裁も少しは保てると思ったのだ。
そこに突然の河田からの動画チャンネル話。
水商売へ転職する前に一度くらいトライしても良いと思った。
そこから河田とは今までとは違う形で
仕事で組むようになった。
メグミはこれまでのアイドル路線をもちろん消して、
自分の私生活をのぞき見感で見せたり、
水商売関係の女性へのインタビューやキャバ嬢体験記など、
夜の世界感を出したチャンネルに仕立てていった。
河田が上手く企画と編集をして
男性ファンのチャンネル登録者を増やした。
そんな二人の評判をメディア業界からも注目されて、
テレビや雑誌で「やらかしちゃった芸能人」枠で
露出するようになっていった。
「しぶとい女ね。でも、まぁいいわ。
時期を見て完全に潰してあげる。
いずれは石鹸の匂いで
ぷんぷんするお店まで行かせてあげる。」
そう心の中でつぶやくと松村ユイナは
スマホをバックに放り込んだ。
「松村さん、そろそろ本番ですのでよろしくお願いします。」
ユイナは笑顔を見せて挨拶をした。
ユイナはアイドルファンタジー解散の後、
大手企業の社長である父が
スポンサーをしている番組に声をかけ、
1人娘であるユイナを人気番組のレギュラーに押し込んだ。
今、次第に人気が出始めている。
アイドルたちはアイドルを終えたあと、
愛する人と生きる道、
違う形で世間の注目
を浴びようと模索する道、
アイドルを続ける道。
それぞれの決めた道を進んで行くのだ。
これからもずっと。
さよならエンジェル MOTO @mot501
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