Episode9.命をかけて
隣の部屋のドアが無駄にデカい音を立てる。
ビクリと私たちが肩を震わせたのと対照的に、橋本先生は呆れたように笑っていた。
予定よりちょっと伸びたからな…ご立腹か。そんなふうに言いながらドアを見る。
「遅い!」
先生が言うようにご立腹らしく、目を吊り上げた金髪の派手な男性が出てきた。
全員がもう一度固まる。
半裸…半裸である。眩しいほど完成された筋肉が、丸見えだ。
男性陣は目を輝かせて、そのご尊顔眺めている。
私たち女性陣は目のやり場に困り、取り敢えず白い目で見ておいた。
その瞬間男性はヒッと息を呑んで、呟く。今年の女子もこえぇと。
いや、あんたいい年したおじさんでしょ?多分。
セリフと行動がついこの間まで一緒にいた小学生なんですけど。
ますます加速した白い目に、シュウゥと音を鳴らすように小さくなり、ドアを開けてどうぞ。と言った。
あ、多少は可愛らしさあるかも?
会釈をして部屋の中に入ると、所謂ジムのような場所が広がっている。
また、重いドアの音が響いて、男性がシュンとしながら話し出した。うん、単純…。
ここは戦闘のために作られた部屋の1つ。一定の身体能力がなければ、隊員として活躍できない。
それを作る場所だ。この学校には体育という授業はない。
俺が教えるのは、戦闘と銃刀、銃に刀と書いて銃刀。
この2つの授業ははっきり言って、生死に関わる危険な授業だ。しかし、必須能力。
常に神経を張り詰めて、真剣に取り組んでくれ。
僕は第22代卒業生。
よろしく頼む…。
終始落胆した表情で私たちの顔を伺う姿に不覚にも可愛いと思ってしまった。
それを隠すように白い目でみると、またシュンとする。罪悪感に襲われて、思わず目を逸らした。
後ろで宮本くんが不憫だ…と言う。
また、彼には私の感情が筒抜けらしい。自分が透明な感情を持ったように、居心地が悪かった。
不憫に思った男性陣が話題をふりにかかる。
「先生はなんで、前線にいないんですか?中間先生もだったんですけど」
教師という職になるには若すぎる。まだまだ前線で活躍できそうな若さも、体力もありそう。
それにも関わらず前線から退いているのは何故なのか。
さすがの視点で尋ね、先生は最も簡単に自信に関心を持たれたが故か、復活した。単純だ。
中間ちゃん言ってなかったのか…。やっぱ、ドジだなっ!
俺たちも出来るものなら、前線にいたかったよ。でも、もう俺は使い物にならないんだ。
少し前に出た戦闘で、ちょっと致命傷を負っちゃってね。
まぁ簡単に言えば脳のわりとギリギリのところに銃弾が入っちゃってるわけ。
当たりどころもめちゃめちゃに良くて、生きてはいれたんだけど、戦闘に出るには危険だしな。
今もギリギリで生きてるわけだ。
ギリギリでいつも生きてたいから♪ってわけだ。
無駄にうまい歌を披露されたが、絶対が全員の頭に疑問を浮かべると、
すっかり調子に乗った先生は1人で騒ぎ始める。
え?KA○-TUN知らない!?嘘だろ!?ジェネレーションギャップかよ!
思わず白い目で見て、話を催促してしまう。自分がせっかちだったと初めて知った。
「あの、早く。中間先生の話してくれませんか」
私はK○T-TUNは知ってる。昔テレビ番組でメンバーの方と共演したことあるし。
ジェネレーションギャップとか、今関係ないし。
自分で自分の催促する理由を考えながら、先を促して先生を見る。
するとまた、シュンとしおらしくなってポツリと話す。
中間ちゃんは、中東にあるアフガニスタン支部地雷撤去班の一員だった。
で、まぁ自分も地雷の被害に遭ったんだよ。右足が吹っ飛んじまって。
任務は無理だし、今は義足だからな。こうして出身支部の学校の教師をしてるわけ。
どこの支部の教師もみんなそんな感じだよ。
橋本先生は、昔猛毒にあたって、そっから任務を外されてる。
合計で日本支部は医学・数学教育担当の橋本先生を始め、理科教育担当の中間ちゃん。
戦闘・銃刀教育担当の俺。
後はこれから会うと思うけど、英語・中国語・古典・現文を中心に言語を教える長渕先生。
社会の歴史・地理・経済・政治4科目を教える駒井先生。変装・潜入を教える三崎先生。
大体はこの6人で1学期・2学期は教える。
3学期からは教科も増えるし、その分非常勤扱いに近い先生が増える。
その辺の先生は、丁度任務終わって暇だからって理由だけで配属されてる人もいるけど。
話しながらジムの筋トレやらに使う道具をスルリと避けながら、部屋の端にあるドアに辿り着く。
ドアを開けると向こう側には随分開けた空間がある。一般的な体育館よりも大きそうだ。
足元は体育館のような板張りで、ガラスの壁の向こう側にはよく見る柔道場のような風貌。
足を踏み入れて、進むと余計に広さを感じた。
ここは実践する場所。お互いに戦ってみたり、パルクールってわかる?
あれの疑似体験をしてみたりだとか。実際にやってみないと分からないことがあるから。
ガラス張りの向こうの道場は、ここで戦闘を最初から練習すると危ないからあるって感じかな。
空手やら柔道やら、剣道やらはあそこでやることが多いね。
壁際によるように指示され、先生がIDを操作するとまた、重い機械音が聞こえる。
床が開き、街の空に近い部分だけを切り取ったような、世界ができる。
疑似建物と建物の間には、水が流れ込んでくる。自分達が立っている場所はスタートラインらしかった。
これは初級コースだけど。こんなのを訓練するのがこの場所だ。
またIDを操作すると、水が流れ出ていき、建物も床に消えていく。
すると今度は人間に限りなく近いロボットが武器を持って、先生に襲い掛かる。
先生はまたIDを操作する。
すると壁から剣が差し出される。それを手に取り、その場でロボットを制圧した。
武器庫で自分の剣を登録したら、建物内の道具専用通路を使ってここまで持ってきてくれる。
他の荷物も運んでくれるから、しっかり利用すればいい。
このロボは戦闘に特化していて、いい訓練になるから。
剣を壁に預けた先生はまた先導して歩き出し、
道場に入り、その中を一周した後また、部屋の1番奥のドアをまた開ける。
するとまた開けた場所に出て、先生がIDを操作した。
今度は射的場によくある、ものが様々な距離感で出てくる。
ここは銃やらを練習する射撃場。ライフルから普通の拳銃まで、ここで練習する。
基本装備が変わらないから、説明は省くな。
また、部屋の隅のドアから誘導されると、廊下に出ていた。
開けた場所にずっといたせいか、随分狭く感じる。
私はどっと疲れてしまって、思わずため息を付くと、視線の先で先生が笑いながら、
また歩き出していた。
Phantom Class シーズン1 Storie(Green back) @storiegreenback
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Phantom Class シーズン1の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます