親子のすゝめ
宇海巴
第一話「母」
浪費家の母親を持つと子は貧乏性になりがちだ。私も例外ではなかった。
宮崎に生を受けた母は、その南国らしい褐色な肌に、真紅のぷっくりとした唇、大きく丸い黒目、白黒映画に出てくる女優さんのようなカールされた黒髪を手に入れた素晴らしい美貌の持ち主であった。
サラリーマンの父はバスガイドの母の美しさに惑わされ、二人は一人娘をもうけて結婚した。暮らしは決して豊かではなかったが、3人の暮らしは満たされていたと、母は言う。
「あの人が不倫するまでは、ね」
私が中学3年生になった夏、父は加奈子とかいう新しい女の元へ行ってしまった。六畳のアパート一室に私と母を捨てて。私は父を憎んだ。しかし母は、時折酒を嗜みながら涙を流すだけで、父への文句の一つもこぼさなかった。そんな母は、一人で立っていても美しかった。
「お父さんはね、加奈子さんが自己破産したから、助かるために私たちと離れたのよ。私たちはお父さんがいなくても生きていけるって、信頼してくれたのよ______」
高1の春がきた。母はご飯を作らなくなった。バスガイドもやめて夜職を始めた。私は母の美しさが憎かった。
親子のすゝめ 宇海巴 @umitomoe
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