路地裏少女と笑いたい②
「━━君さえよかったら、家に来ないか?」
路地裏ですずかを見つけ、話していくうちに、
俺はこの子を救いたいと考えるようになった。
親のせいで、こんな寂しくて辛い生活を続けなければならないすずかが可哀想だった。
だから俺は、家に来ないかと提案したのだ。
「・・・。」
「両親からは、条件付きで了承してもらったんだ。
あとは、すずか次第なんだ。」
「…。」
すずかは何かを考えるように、押し黙る。
悩んでいるのかもしれない。
迷惑をかけるのが悪い。と思っているかもしれない。
俺は待った。何秒も、何分も待った。
すると、やがてすずかが口を開いた。
「・・・それ、私にとってすごく魅力的な話。
・・・だけど、いい。遠慮する。」
「・・・。
そうか。」
正直、断られるとは思ってなかった。
何か理由があるのだろうか。
「・・一応、理由を聞いてもいいか?」
すずかは一度言うべきか悩んだようだが、理由を話してくれた。
「・・・あんなでも、私の親だから。
そんな日は来ないかもしれないけど、いつか、普通の家族みたいになったらいいなって。
だから、断ったの。」
「・・わかった。すずかがそうしたいならそうするべきだよ。」
無理強いはできない。ただの他人の俺が、すずかの人生を勝手に変えるのは許されないから。
「・・・でも、提案してくれて嬉しかった。
それは本当だよ。」
「うん。じゃあ、俺もすずかの両親が良い人に変われるように願ってるよ。」
・・・変わるとはとても思えないが、俺はそう言うしかなかった。
〇〇〇〇
また別の日。
「・・・あ。
こんにちは。」
「おう。こんにちは。」
いつのまにか、すずかの方から挨拶をしてくれるようになった。
「今日は最近出たカレーパン持ってきた。
美味いぞ。」
「・・・ありがとう。」
そして、いつものように温かい食べ物を渡す。
しかしすずかはどこか暗い表情を見せ
「・・・ねぇ。」
「んぅ?
どうした?」
「このカレーパンっていくらくらいするの?」
「え?
160円くらいだけど。」
「だったらさ、今まで私に持ってきてくれた総額って━━」
「あぁ!大丈夫だから!気にしないでって!
俺が好きで持ってきてるだけだから!」
どうやらすずかは、食べ物を貰うのにだんだんと申し訳なさを感じていたようだ。
「でも、、、」
「いいんだよ。人は助け合いだ。」
「私はあなたを助けてない。」
「そんなことないさ。
俺にとっちゃ、こんな風に静かな場所でゆっくりできるのはとても満たされるんだ。
そんな場所に居てもいいよって言ってくれてるんだから、俺は助けられてると言えるよ。」
「・・・。」
「それに、さ。
両親と普通の生活するためには、ちゃんと生きないといけないからな。
言ったろ?応援してるって。」
「・・・なにそれ。カッコつけすぎ。」
無表情のまま、こちらをじとっと見つめる。
「ははっ。うるせー。」
すずかとも、大分打ち解けれたみたいだ。
俺はそれが嬉しく、ついつい笑ってしまった。
別の日、すずかは黒猫と遊んでいた。
「すずかたち、ほんと仲良いよな。」
そんな俺に対し、黒猫がこちらを見つめじっとしている。
・・・?どうしたんだろ。
あ、これはわかる。あの目は、、、獲物を見つけた時の目だ。
そう思った瞬間、黒猫は俺に向かって一瞬で距離を詰め、胸に頭突きをかましてきた。
「ぐぉっ!!」
なんとかギリギリ抱き留めることができた。
「あなたも、ずいぶんコロに懐かれたね。」
いつもの無表情なすずかが言ってきた。
なるほど、確かにグルグルと喉を鳴らしている。
頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
か、可愛い!!
「・・・。」
するもすずかがこちらを羨ましそうに見つめていた。
もしかして、コロとイチャつく俺に嫉妬しちゃったのか?
でも、きっと大丈夫だろ。
コロは俺よりすずかになついてる。
「…よし。」
俺は撫でるのもそこそこに、
「ほい。今日も新しいの持ってきた。」
こんな生活が、しばらく続いた。
バイト終わりや暇な時間に、温かいご飯を持っていき、そこで俺は愚痴や今日あったことを話す。
そしてたまに、コロと遊ぶ。
そして今日も、そんな生活を送ろうとしていた。
しかし、今日はそうもいかなかった。
「……グスッ。」
すずかが泣いているのだ。
「…おい!どうしたんだ?大丈夫か?」
すぐに俺はすずかの元へ行き、事情を聞く。
「……お父さんが、お母さんと離婚したって。」
「……!!」
それは、いきなりだな。
「・・・それは一体、どういうことなんだ?」
「お父さん、女の人捕まえてどこかへ消えたって、周りの人たちが言ってたの。
もう、家族で一緒になれることはないんだね。
」
「・・・。」
「あぁ。もっと早く、2人のところに戻ればよかった。」
すずかは大分傷ついたようだった。
なら、
「もう、後悔してもダメだ。
直接会いに行こう。
説得するんだ。お母さんの方を、」
そして俺はすずかの手をとり、すずかの母がくらす部屋まで行った。
それにしても、すずかは久々に立ち上がったせいか、足はカクカク震えていた。
「うち、いつも鍵開けっぱなしだから、、、。」
すずかの言った通り、扉はすぐに開いた。
中は、すごく汚い。
すると、奥の方から
「はぁ〜い。誰れすか〜?」
といった、間延びした声が聞こえてきた。
酔っ払ってんのか?
「……お母さん。」
お、すずかがいった。
「ん〜。その声、すずか?」
それにお母さんも気付いた。
「……。」
すずかは、何も言うことができない。
でも、しょうがないだろう。
いきなり、俺に連れてこられたんだから。
すると
「あー。ちょうど良かったわ〜。
あんたさ、ちょっと体売ってきなさいよ。
あんた顔いいんだから高くつくよ?」
「……え。」
・・・こいつは親として、最低なことを言いやがった。
すずかもショックが隠せていないようだ。
俺はもう、こんなやつと将来家族になれる訳がないと、そう感じた。
「ほら。早く。行きなさいって。
あ、この仕事教えたの私だからちゃんと私にもお金持ってきなさいよ。」
……しまった。連れてくるべきじゃなかった。
俺は後悔した。
すずかを無理に連れてきてしまったせいで、すずかにとって最悪な事態にしてしまった。
「……。」
すずかはゆっくりと立ち上がり、家を出ていった。俺もそれについていく。
ただ最後に、
「お母さん。
私、もう無理だよ。ごめんね。さよなら。」
とだけ言い残して。
〇〇〇〇〇〇〇〇
それを聞いた母親も、特に気にした様子もなく。
「あらそう〜。別に今まで通りに戻るだけだしねー。勝手になさーい。」
と言っていた。
「・・・すずか。ごめんな。
・・・こんなことになって。」
まさか、あんなにクズだったとは。
「………うん。いいの。
なんとなく、私も分かってたし。」
すずかは今だに辛く、悲しそうな表情をしている。
しかし、その中にどこかスッキリしたような表情もあり
「……うん。ちょっとスッキリしたかも。
今まで両親に期待し過ぎてたから。
ようやく、解放された感覚。」
「……なぁ。もし、行く当てないなら、やっぱり俺んとこ来ないか?」
俺はそんなすずかを放っておけず、再度そう提案した。
しかし、
「……ううん。もう、いいの。
散々、お世話になったし。これ以上迷惑もかけたくない。」
「なら、これからどうするんだよ。」
「秘密。
あと、この後はもう自分の家に帰って。」
すずかはそれだけ言い残し、また路地裏に入って行った。
俺も、すずかに言われた通り帰ることにした。
1人になりたい時だってあるだろう。
明日は美味しいので持って行ってやろう。
そして、また雑談でもできればいいな。
と、考えていた。
しかし、それは叶うことは無かった。
いつもの路地裏に、すずかの姿がない。
そこにあったのは、キレイに畳まれた掛け布団。
その上に、コロが眠っていた。
「どこに行ったんだろ。」
どこかに出かけているのか?
と一応、食べ物が入った袋だけ置いて置き手紙を残し、その場を離れた。
次の日、その袋はカラスに荒らされていた。
ここへ戻ってきた形跡はない。
その次の日も、そのまた次の日も、すずかは路地裏に姿を見せなかった。
「……どこ行ったんだっ、、、!」
なんだか、嫌な予感がする。
すると、その予感が的中するかのようにおばちゃんたちの会話が耳に入ってくる。
「━━あそこ━━娘さ━━━死━。」
「━━!そうなの!━━私━。」
「・・・。」
そうか。
まぁ、無理もないか。
両親に恵まれず、父は逃げ、母には体を売ってこいと言われる。
しかも、何よりも大切な家族から。だ。
それなら、仕方のないことだと思う。
……だけど、最後くらい、、俺に助けさせて欲しかった。
〇〇〇〇〇〇〇〇
あれから、1月ほど経っただろうか。
俺はいつものように、コンビニでレジ打ちをする。
前みたいに、楽しみもなくただただ対応をするだけ。
・・・いかんいかん。お客様にこんな態度じゃダメだ!
しっかり声出して!笑顔で!対応せねば!
「たいがくーん。ちょっとレジよろしくー!」
「あ、了解っす。」
一緒のシフトに入った先輩に返事をし、仕事モードに頭を切り替える。
すると、1人の女性が入店してきた。
「いらっしゃいませぇー!」
元気よく、挨拶をする。
その女性は、カゴも持たずに一直線にレジまで来た。
うわ。キレイな女性だこと。
それが、俺の感想。
すると、その女性は、どこかで聞いたような声で
「肉まんと、ピザまんと、あんまんを2つずつください。あと、袋も。」
と言った。
うお!めっちゃ頼むな!
「2つずつですね?わかりました。
合計〇〇円になります。」
そしてそれぞれを専用の紙に包んでいく。
その間、
「どなたかと食べるんですか?」
雑談を切り出す。
ちょっとした時間の使い方だ。
「…はい。そうです。」
女性はぎこちない笑顔で答えた。
「いやー、これから寒くなりますからねぇ。」
「……そうですね。」
よし、全部終わった。
袋に入れて女性へ手渡す。
「お待たせしました。」
……しかし女性はそこから離れない。
「…?…あの?」
「……。」
えぇ、困ったなぁ。
ちょっと拗ねたような顔をしていらっしゃる。
……それはまるで、野良猫のような━━━
「━━━え。」
「……本当に、気付かないの、、、?」
「え、嘘。なんで。」
それはなんと、すずかだった。
「…私、あれから頑張ったの。
お母さんたちのためにってずっと貯めてたお金を、全部自分のために使って、身なり整えたりしたの。
そして、、、今までのお礼を、あなたに言いに来た。」
すずかは、今までの無表情が嘘のように
「はい!これ、気が向いたら食べて!」
とびきりの笑顔で、どこかで俺が言った言葉を返してきた。
路地裏少女と笑いたい。 S@YU @sayu_animezuki
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