下校

帰澤柊

足が重い

 すみません。ちょっと変な話なんですけど、聞いてくれますか。先週のことなんですけど、誰にも話せなくてもやもやしているんです。

 僕が通ってる高校って、駅から結構遠いんですよ。電車通学なんですけど、かなり早く家を出ないといけなくて。そのうえ田舎なものですから電車も少ないんです。

 そんなだから、帰り道でも結構電車を気にしないといけないんですよ。少しでも遅れると、1時間以上待たないといけなくなってしまうから。大きい道から外れた近道もあったので、乗り遅れることはあんまり無かったんですけどね。

 先週、僕は急いで帰ってました。部活が少し長引いて、走ったって乗れるか分からないくらいだったんです。

 7時くらいだったかな。夏だから、そこまで真っ暗ってわけではなかったんですけど。でも、なんか怖いじゃないですか。いつも使ってるいっそう暗い近道を通るにも、少し抵抗があったんです。

 急いで走ってたんですけど、流石にもうダメだって思って。仕方なく通ることにしたんです、その道。時間も短縮できるし、そこなら歩いたって間に合いそうだったから。

 歩いてみると、やっぱり少し怖かったです。街灯もなくて、空き家ばっかりで誰もいませんでした。

 道の中盤に差し掛かったくらいで、なんか異臭がするなって思ったんです。田舎なので畑の臭いなどには慣れていたんですけど、なんかそういうのとは違うんですよ。なんていうのかな。生臭い、すえた臭いでした。生ゴミが腐ったような、それの何倍も強いような感じです。

 恥ずかしながら、僕はオカルト的なものが好きで。嗅いだことのないような不思議な臭いの元が気になったんです。

 なんとなくまわりを見渡しながら歩いてたんですけど、あるところで臭いが一層強くなったんです。鼻を押さえて、これは近いな、なんて思ったりしました。

 馬鹿ですよね。それで、近くの庭木に顔を突っ込んで、他人の家の庭を眺めたんです。

普通だったらそんなことしないじゃないですか。でも、疲れとか好奇心とかあって、判断が鈍ってたんです。

 庭木の向こうは、空き家なのか蜘蛛の巣だらけの古い家と広い庭がありました。草とかが生い茂っていて、いかにも手入れされていない感じでした。

 その庭に、変なものがあったんですよ。なんか、丸めた薄い掛け布団みたいなんですけど、ぼこぼこしてて所々が変な色なんです。変色した赤みたいな茶色と、黄ばんだような色とかで。

 明らかに臭いはそれが原因で、僕はいっそう強くなった臭いに思わず鼻を押さえました。そして、目を凝らしてそれを見ました。確かに入っている中身の、大きさや形を確かめようとして。

 ですが、次の瞬間には走り出しました。風を受けた目から涙が滲むくらい、思いっきり。

 もう最後の方は鼻も押さえてる場合じゃなかったです。ぞろぞろと駅へ向かう人たちの中で、僕だけが肩で息をしていました。

 結局、電車には間に合ったんです。でも、キーホルダーを一つなくしてしまって。近道に使った道以外の場所は探したんですけど、どこにもなかったのでもう諦めようと思ってるんです。

 僕はもう、あの道を近道にすることも落とし物を探すこともできません。そうしないと、毛布の端から出た赤黒い足を思い出してしまいますから。

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下校 帰澤柊 @kizawa_syu

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