Episode5
「“我と愚弟はある意味、同一神”って言ってたけど……それがどうかしたの?」
緋翠はそう話す。
「それが、俺も気になってたんです。ツクヨミと同一神ってどういうことなんだろうって気にはなってたんですけど、それの答えが出そうなんですよ」
桜はマグカップに口をつけながらそう言った。
コーヒーを一口、喉に流す。小さく息を吐きだすと、再び口を開いた。
「前に、俺に話してくれましたよね?三貴神の話を……」
彼は赤夜を見た。
「ああ、確かに話したよ。でも、それと関係が?」
「三貴神は、アマテラス、ツクヨミ、スサノオから成っている。しかし一方では、ツクヨミとスサノオは同一神であるかもしれないと記述があるんです」
桜は印刷した資料を二人の前に置いた。
【ツクヨミは、アマテラスから保食神(うけもちのかみ)に会いに行くよう命じられた。保食神はツクヨミに捧げるために、口からたくさんの海山の食物を出し、奉った。だが、それを見たツクヨミは“口から出した食べ物を神に贈るとはなんと汚らわしいことか”と激怒し、剣を抜き、保食神を殺した。一方で、スサノオもまた、口と尻から食物を出す大気津比売神(オオゲツヒメノカミ)を斬り殺した。この二人の神には似たエピソードがあり、神格の共通性が指摘されていることから、同一神説が唱えられている】
二人は資料を眺め、やがて口を開いた。
「こんなこと言ったらあれだけど……僕でも嫌だな……口から出したものを食べろって言われるのは。まあ、殺しはしないけど……」
緋翠がそう言うと、赤夜は何を言うでもなく、苦笑いを浮かべた。
「そうかもしれないけど、俺が見てほしいのはそこじゃなくて“神格の共通性”ってところなんです!もし、これが本当なら……俺じゃないと地震を抑えられないって言うのも納得がいきませんか……?」
「確かに、ツクヨミは夜を統べる神だ。地震ならスサノオだろう……。けれど、もし仮に……ツクヨミとスサノオが同一神だとしたら……この国に伝わる三貴神は大きく覆ることになる……」
赤夜がそう言うのも無理はない。
「……聞いてみますか……これが真実かどうか。ちょっと降りてもらいましょうか……彼に……」
桜は目を閉じ、体の力を抜いていく。
わずか数分の出来事にもかかわらず、その時間は長く感じられた。
そして、桜の瞳が開かれると、それは恐ろしくも美しい金色に光る瞳が現れた。
「この者が我に頼むなど、珍しいこともあるものですね。三貴神の話をしてほしいなどと、神に頼む話でもないでしょうに……」
桜もといツクヨミはそう話す。
「桜くんが……スサノオとツクヨミは同一神じゃないかと……。それは本当なのですか?」
「はっきりとは申し上げられません。ですが、我にも彼と同じ力をもたらされていると思っていただければ……」
ツクヨミはそう言った。
「アマテラス、彼女は我が保食神を殺したことで相当な怒りを見せましてね。それから世界には昼と夜が訪れたのですよ」
「日月分離……ですね?」
赤夜はそう尋ねる。
「ええ。彼女はスサノオを追放し、我とも距離を置いた。その怒りで私にも……スサノオと同じ力がもたらされてしまった……あの破壊神と同じ力をね……」
「では……あなたの神格は……」
「それは変わりありません。ですが、月は……昔から命をはぐくむ水や不老不死とも関連があるのです。月と言うのは不思議ですね……。満ちては欠け、欠けては満ち……まるで生と死、人間のようです。月には特別な力があるのですよ。新たな命を生むのも、多くの死をもたらすのも、災害を呼び起こすのも我です。ただ、あらかじめ月を詠めさえすれば、月に従えれば……終焉はない。かの陰陽師でさえ……月や星を詠むくらいですから」
彼はそう言った。
「同一神であるというのは否定はしません。ですが、肯定もできない。それはご理解くださいね。彼に言われたことは話しましたから、私は戻ります。あまり長時間、我がいると彼の負担になる。それに……居場所をなくしますから」
そうツクヨミは言うと、本当に帰った。
そして、桜の体に力が戻る。
「否定もしないけど、肯定もしない……か。でも、あの感じだと同一神説が高いかもしれない」
「桜くん、どうする気?」
緋翠は何かを感じ取り、そう尋ねる。
「やるしかないでしょ……俺しか使えないんですから、ツクヨミの力は……」
「じゃあ、やるって……」
「なんとしてでも抑えないとでしょ。大地震をこの力で抑えられるって言うんなら、何とかしてでも抑えないとだめだ……」
桜はそう言う。
「てことで、俺はさらに精進しますよ。いつ来てもいいように、力を高めないと」
彼は微笑むと、部屋を出て行った。
「社長、あれ……かなり無理してますよね」
「そうだな……でも、私たちは口も手も出してはいけない。今はね」
*
「って言ったものの……一体何をどうすれば……」
桜は屋上で頭を抱えていた。
「……俺はどうすればいい?地震がいつ来るとか、さすがのツクヨミでも分からないよな……」
彼は誰に言うでもなくそう呟く。
今の自分ができること……それを必死に考える。けれど、答えが見つかるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていく。
そして、それは起こった―――。
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