Episode8

「すみません、扉開けますね?」

 正気を取り戻した鷲谷は、ドアノブに手を掛ける。

 鍵すらかかっておらず、扉はいとも簡単に彼らを招き入れた。

「え、警察!?」

「神代署の者です。失礼ですが、佐々野有里さんでお間違いないですね?」

「そ、そうですけど……あの……あ!梨乃!」

「有里……」

 有里は笑顔で梨乃に近寄る。だが、彼女はその身を引いた。

「ごめん……有里、ごめん……」

「へ?」

「佐々野さん、あなたをこの世ではないところに連れて行ってしまったのは、神のせいでした。こちらの川端さんが、あなたをこの世に引き戻してくださったのですよ」

 赤夜はそう説明する。

「……知ってます。全部、聞こえていましたから……。梨乃が私を疎ましく思ってこうしてしまったことも、梨乃の瞬くんへの気持ちも……。梨乃がこんなことしたのは多分、私のせいでもあるんです。だから、梨乃だけを責められない」

 彼女は梨乃に近寄り、「私の方こそ、ごめん」とその肩を抱いた。



 後のことを警察に任せ、赤夜、緋翠は眠る……気絶する桜を連れてインビジブルへと帰る。

「あれが一言主の力なんですね……」

「私も今まで生きてきて初めて見たさ。桜は……間違いなくツクヨミの……」

「神様も言ってましたから、間違いないですね。“まさかツクヨミか”ってあの神が言うんですから」

 赤夜は反芻していた。

 ツクヨミの……ではなく、ツクヨミか……。これは一体どういう意味なのだろうと。

 

 その晩、インビジブルに鷲谷、成田が現れた。

「どうかされました?」

「彼女たち三人の事情聴取を行い、まとめた調書をお持ちしました。目を通された方が良いのではと……」

「そうですか。では、ありがたく……」

 そこに記されていたのは、三人の関係から事件発生に至るまでの経緯、そして梨乃は殺人未遂罪で起訴されること。川端も幇助犯として罪には問われるが、恐らく減刑にあたるであろうとのことだった。

「なるほど……梨乃さんは、川端さんを好きだったんですね……。それが発端か~」

 赤夜の背後から書面を見ていた緋翠がそう言う。

「だからと言って、殺人を起こそうと考えるのも、それを神に頼もうとするのも、どうかと思うが……。こればかりは、我々のような普通の道を歩んできていない者には分からないことばかりだな」

「それもそうですね。人間ってやっぱり難しい生き物ですよね……。さて、桜くんの様子見てきます!」

 緋翠はその場を去った。

「あの……今回のこと……その……」

「あなた方の記憶を触ることはしませんが、今回の事件のこと始まりから終わりまですべて、見なかったことに。口外も無用ですよ。もし言ってしまったら……助けるに助けられませんから」

「それはどういう……」

「それも秘密です」

 赤夜はそう言うとほほ笑んだ。



「桜くん、君はツクヨミの力を持って生まれた人間なの?それともやっぱり……ツクヨミなの?」

 緋翠は眠る桜に顔を近づける。

「安心して。僕が守るから……」

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