Episode5
「初めに俺が違和感を感じたことを伝えたのは覚えてますか?」
「痛みが来たかもってやつ?」
緋翠がそう尋ねる。
「それです。あの時は、それを感じたから裏だと思ったんです。でも、二人は何も感じていないようでしたし、何も言ってくる素振りがなかったので今回は表だと……」
「つまりは……今回のことは表ではなく裏だと言いたいのか?」
赤夜はそう聞く。
「断定はできません……ですが、その可能性もあるので我々だけでも裏だと仮定して動いた方が良いかもしれないと……」
桜はそう言った。
「なぜ裏だと思ったんだ?桜のことだ、痛み以外にそう思う節があったということだろう?」
自分の感覚でしかないそれを伝えていいものかと悩む。この、勘に似たそれを伝えて、信じてもらえるのか……。
「信じる。桜くん、君の言うことちゃんと信じるよ」
「勝手に読まないでくださいよ」
「ごめん。でも悩んでるみたいだったから」
一呼吸おいて、桜は話し始めた。
「彼女の発言、行動すべてに違和感を感じるんです。それが何かって言われると自分でも分からないんですけど……でも、何かが引っ掛かるんです。それに、彼女が有里さんと電話した時の内容……」
「内容?」
「ええ。“有里!?今どこにいるの!?そこはどこなの!?”って言葉。そこはどこなの、この言葉が引っ掛かるんです。彼女がどこかにいるのを前提でそう声を掛けたと言われれば分かります。おかしくは感じない。でも“そこから出してあげるから”と言う言葉で、違和感は増しました。彼女はおそらく知っているんですよ……有里さんの居場所を……」
緋翠は目を丸くさせ、桜を見ている。それは赤夜も同じだった。
「どういうことだ……」
「二人が何も感じなかったのは、霊的なものではないから。でも俺は感じた。つまり……これは霊ではなく神だから……」
「……神……?」
緋翠が言う。
「どこかに隠されて、出てこられない。何かは聴こえるが見えない。そして斎藤梨乃の気になる発言……彼女の自宅に行けば何か分かると思いますよ。許可してください、彼女の自宅へ行くことを……」
「……霊ではなく神だとしたら、私たちには成す術もないな……。感じなかったのにも説明がつく。神は……私や碧の分野じゃないからね。桜、許可するよ」
赤夜は首を縦に振った。
「ありがとうございます!」
彼は一目散に自室へと走っていく。
「……神か……なるほどな」
「社長?」
「私たちはとてつもなく強大な力を持った人間を仲間に招き入れてしまった……桜はいつかあの力で自らの身を滅ぼす……目を離せないな……」
赤夜はそう言って緋翠を見る。
「社長、もし仮に桜くんがあの力で自分の身を滅ぼすときが来たら、僕は彼が吞まれる前に、この手で……そう思って今日まで接してきました。安心してください……僕は彼のそばから離れる気はありませんから」
緋翠はうなずく。
*
翌朝、インビジブル一行は梨乃の自宅へと向かっていた。
「行く前に連絡した方が良いと思うけど……連絡は本当にしないの?」
「しませんよ。連絡して向かったら、きっと彼女は証拠となるものを捨てるに違いない。連絡はなしで向かいます」
「いいのかな……そんな“突撃!お宅訪問!”みたいなことしてさ……」
緋翠はおどけたように言う。
「社長の許可だってあるし、なんなら同行してるし、大丈夫ですよ。ですよね?」
桜は赤夜に同意を求めた。
「まあ……この際だ良いだろう」
そう口にする赤夜だが、顔はどこか曇っていた。
インビジブルから車で一五分。
「この辺りですよね……あ!あそこ……やっぱりこれは霊じゃなかったんですよ!」
一軒のマンションを見つめる桜。その瞳は以前と同じように薄く金色に光っていた。
「俺、先に行ってますから!」
信号で停まる車から桜は一人降り、梨乃のマンションへと走っていった。
「あの瞳……」
「ああなった桜くんはもう止められませんよ。前もそうでしたから。無意識なのか意図的なのか分かりませんが、瞳の色が変わっているときは力を使っているということなんですよね、きっと……」
信号が青に変わり、車は近くのパーキングエリアへと入った。
すぐさま桜の元へと向かう二人。
「桜くん!」
玄関の扉は開いていた。
嫌な予感がする……。緋翠は焦る気持ちを抑えながら部屋へと入っていった。
「斎藤さん、お邪魔しますね……」
部屋は散らかっている。元からの散らかりと言うのではなさそうだ。もしかしたら……。
「あ!緋翠さんでしたよね!?この人、急に入ってきたかと思ったら手当たり次第に散らかしていくんです!どうなってるんですか!?」
梨乃は恐怖にも似た怒りをぶつけてくる。その感情が痛い……。緋翠は肩を縮めた。
「斎藤さん、申し訳ない。ただ、彼には何か思うところがあるようなんです。もう少しだけ……こうさせてやってほしい」
自らの体で緋翠を隠し、赤夜はそう言った。
「だって……もう少し、もう少しって言いながら有里は全然……戻ってこないじゃないですか……なんで……」
「……しらばっくれるのもいい加減にしろよ……あんただろ?原因は……。違うか……?」
桜はいつもとは異なる声色でそう呟く。
空気が変わった。今にも張り裂けそうな、ぴきぴきとした空気がそこに漂っている。
それを破ったのは、一本の電話だった。
「……もしもし、どうなりました?」
『川端瞬さんと連絡が取れ、話が聞けました。彼も図書館に呼び出されたそうで、トークも残っています。図書館に呼び出したのは、佐々野有里さんの方でした。ただ、向かったら有里さんの姿はなくて、しばらく図書館内を探していたそうです。川端さん曰く、自分も有里さんを探すべく、梨乃さんに協力を申し出たりしたようですよ。とりあえず、図書館で彼と会う手はずを整えたので今から図書館の方へ向かってみます!』
電話の相手は成田だった。
「川端瞬を呼び出したのは、佐々野有里さんの方だと警察から連絡が来たよ。でも、有里さんは彼から連絡が来たと言っていたね。これは……どういうことだろうか」
「……そんな……。有里が自分から連絡なんてするわけない!あいつのせいで嫌な思いをしてたんだよ!?自分から連絡なんて……」
梨乃は首を横に振りながら、それはおかしいと訴えた。
「
桜は突然そう口にする。
「なんで……」
「お前は……神に頼んだのか……?なぜ、悪事を神に頼んだ……?」
薄い金色に輝く桜の瞳は、梨乃を捉えていた―――。
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