Episode7

 あっさりと自白した磯田。

 それをしっかりと聞いた桜は、踏みつけていた足を離し、彼を引き上げるのを手伝った。

「ここ、閉じるんで離れててください」

 そう話す彼の瞳は金色に光っている。その様子をじっと見つめ、目を離さない赤夜と緋翠の姿。

「……“閉”」

 桜はたった一言、口にする。そして、リビングにぽっかりと開いているそれの端に、手を当てた。右から左へそれをなぞる。すると開いていたはずのそこが、閉じられていく。まるで、洋服のファスナーを閉じていくように、口と口が合わさりきれいに繋がった。

「ここは一応閉じましたけど、また何かの拍子に開くかもしれない。それがどうなるかは、あんた次第だ。今さっきここで自白したことを、警察にきちんと話せ。そしてこの骨は、彼女に返すんだ。大切な子どもの骨なんだから……。それさえきちんとやれば、彼女はあんたに付きまとうこともないし、こんな現象が起きることもない。二度とな。だから……」

 彼の金色に光る瞳が黒く戻った途端、桜はその場に崩れ落ちた。

「……危ないっ!」

 倒れる寸前、赤夜は桜を受け止めた。

「ふぅ……間に合った……」

 それと同時に部屋に入ってくる警察官。

「すみません、ここに月詠さんと言う男性の方はおられます?通報がありまして、容疑者がここにいるからと伺ったのですが……」

 緋翠と赤夜はお互いに顔を見合わせ、目をぱちくりさせていた。

「一体いつの間に連絡を……」

 赤夜は腕の中で意識を無くす桜をじっと見る。

「この子は……危険だね。我々なんかより、もっと危険な存在だ。目を離すとどうなるか……」

「確かにそうですね……」

 二人は、桜を抱え車へと戻る。

 磯田は警察に引き渡した。もちろん、事情を全て説明したうえで。



 翌日、自室のベッドで目を覚ました桜。

「あの……俺って昨日……」

「おはよう。昨日のこと、覚えてる?」

 赤夜が声を掛ける。だが、桜は首を横に振った。

「全く覚えていないわけではないんです。でも……何がどうなって、俺があそこにいたのか……あそこって、どこだったんですか?」

「……磯田の家。覚えてない?」

 緋翠が尋ねると、「磯田さんは分かります。ですが、家は……」と困った顔を見せる桜。

「昨日、桜くんとここで朝食を食べながら磯田の話をしたよね?」

「ええ」

「そのあと、君は玄関が写る写真を見た。そして磯田の家に行きたいと言ったんだ。だから僕は、社長に連絡を取って自宅に行く許可をもらおうとした。でも……」

 緋翠は昨日の出来事全てを、順を追って説明した。

 だが、当の本人は頭を抱え、苦し気な表情を見せているだけ。

「すみません、俺……覚えてなくて……」

「前に言ったことを、覚えているね?君にはツクヨミの力があると……。君は、恐らく霊が絡むと、無意識にツクヨミを降ろしちゃうんだよ。その証拠に、瞳の色が変わる。月は夜の支配者だ。何もかも知っている。世界を明るく照らすだけでなく、夜は月が世界を見守っているからね……すべてお見通しなんだ。そんな神の力を持っている君は、ツクヨミをその体に降ろせる。その力さえうまくコントロールできればいいんだろうけど、今はそれも難しそうだ。だから、力の使い方を思い出さないといけない。桜、これだけは約束してほしい。何があっても一人で行動しないこと、何かあったら必ず相談すること。力を使うときは一人で使わないこと。いいね?」

 赤夜がそう言う。

「はい……分かりました」

「約束だよ」

 桜が頷くと、「よし、じゃあ朝ごはんだ!今日は私が作ったからね、和食になってるよ」と雰囲気を変えた赤夜。

「手伝いますよ!」

 桜がお皿を運ぶのを横目に、赤夜は「何があっても目を離すな」と緋翠に耳打ちした。「桜の力は、神にも悪魔にもなる。一人にするな」と。



 磯田を警察官に引き渡したとき、自分たちが絡んだことを口止めしていた赤夜。

「我々が絡んでいることは内密に……」

 赤夜はそう告げる。が、警察官は「それはどういう意味で……」と不審に思っていた。それもそのはず。

 “インビジブル”の彼らは世間から隔絶された世界にいるのだから―――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る