Episode5
「あ、おはようございます!」
エプロンを身に着け、キッチンに立つ桜。
「朝食の担当、僕だったのにごめんね」
「いえ!料理は好きなんで。それより、例の事件ですか……?」
「うん。社長から新たに送られてきてね、資料を集めてるけど……なかなかね」
緋翠はそう言いながら、まだ眠気の残る頭を振った。
「もし良かったら、俺に事件の詳細とか教えてくれません?何か気づくことがあるかもしれないし」
桜がそう言うと、彼は不思議そうに聞き返す。
「あれ……桜くんはこの事件の詳細知らないっけ……?」
「あ、はい。その事件って俺が来る前のですよね?だから、その事件の調査をしているのは知ってるんですけど、どういうのかは……」
「そっか!桜くんって、
彼はそう言うと、事件の資料を手に再びリビングへ戻ってきた。
「朝食食べながらで申し訳ないけど、助けてくれる?」
緋翠は食パンを手に、資料をめくり始めた。
「依頼者は、
「ストーカーですか?」
「ううん。これね……霊障なんだ」
桜は目を丸くさせる。
「こういうのも霊障になるんですか?」
「もちろん。霊絡みっていうのは既に確認済みなんだ。社長と二人で彼の自宅に伺ってそれが絡んでるのをちゃんと確認してる」
「霊絡みってことは、幽霊がいるってこと……ですよね」
「それが、いなかったんだよ。いたら祓えば何とかなったかもしれない。でも、いないから……祓うことも出来ずに現状維持で、今も霊障が続いてるんだ。だから、社長が彼の自宅に出張として滞在してるんだよ。……難しい問題さ……」
「扉が開いたりとか、そういうのってポルターガイストじゃないんですか?」
桜は不思議に思っていたことを口にする。
「確かにその可能性もあるかもしれない。でも、僕のここが反応したってことは霊で間違いないんだよね……」
緋翠はそう言うと自らの腹部に手を当てた。
……一体どういう意味だ。そこに何が……。
そう思った矢先、「そのままの意味だよ」と返される。
「え……?」
「僕はね、霊が存在していればすぐに分かるんだ。ここが反応するから……。だから、ここにいる。インビジブルにいる僕や社長、もちろん君も、普通の……今の世界からすれば異質な存在なんだよ」
緋翠は時々、寂しそうな、悲しげな顔を見せる。今もそうだ。眉は下がり、目は心做しか虚ろだ。
「緋翠さん……その……」
桜が言葉に詰まっていると、緋翠は小首を傾げ口を開いた。
「ここにはね、シルシがあるんだ。僕らが異質な存在であるという証拠が……」
彼は静かに立つと、そっとシャツを捲り、左下腹部を露わにする。
「あ……」
そこにあったのは確かにシルシだった。
それは、子どもの手のひらほどの大きさの痣。
「これって……」
「気持ち悪い見た目してるでしょ……これがあるから、僕は学校のプールも修学旅行のお風呂も、友達との夏の遊びも……何もしてこなかった。これがあるってバレたとき……仲間は離れていったよ……。こんな異質なの……気持ち悪いもんね。離れたくもなる……」
彼は自嘲気味に言うと、シャツを戻し、席に座った。
「あ、あの……そう言うのって、社長にもあるんですか……?もしかして俺にも……」
「社長はね、足の裏にある。これと似たようなのが、左足にね。桜くんは……見えるところにないってことは、隠れてるところか……そもそもシルシがないのか、だけど……。今まで気づいてないんなら、元々ないのかもね」
そう言われ、なんだか複雑な気持ちになってしまう桜。
「桜くん、事件の話に戻ろっか。ごめんね、急に変なもの見せちゃって」
緋翠は資料を彼に見せる。
「磯田さんの自宅に存在してるのは霊で間違いない。だから、何とかしないといけないんだけど、霊が視えないからどうすることも出来ない。何が原因で霊障に悩まされているのか、祓うにはどうすべきなのか……。なんか、思いつくこととかない?」
懇願の目で桜を見つめる緋翠。
桜はずっと資料を見ていた。
「部屋の写真とかって撮ってありますよね?」
「……どうして?」
「いや、なんとなくそう思って……ごめんなさい、変なこと……」
「撮ってるよ。各部屋を色々なアングルで撮った写真、五十枚」
緋翠は自室に戻り、ファイルを持ってきた。
「これがリビング兼キッチン。こっちが寝室、こっちがトイレで、ここが洗面室兼浴室と脱衣所……で、こっちが……」
桜は一枚の写真に釘付けだった。
「これ……」
「それは玄関の。それがどうかした?」
桜はお札の貼られた玄関の写真を手に、緋翠に頼む。
「ここに連れて行ってくれませんか?」
彼は緋翠に頼んだ。
「だったら、社長の許可がいる。出張は全部、社長が管理してるんだ。連絡、してみるね」
緋翠はスマホを手に、社長に電話した。
すると、電話の向こうから何やら悲鳴が聞こえてきた。
「社長っ!?どうかしたんですか!?」
『私じゃないっ!磯田さんの声だ!この現象、彼の……』
電話は切れた。
「何が……」
「行きましょう!助けないと!」
桜は事務所を飛び出した。
「ったく!一人で行っても住所なんか知らないのに!何か起きても覚えてなきゃ対処もできないのに!あの子、猪突猛進だな……もうっ!」
愚痴をこぼしながら、緋翠もまた彼の後を追うように事務所を飛び出した。
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