Episode4

「……消したんだよ。君のその力を、ご両親は巫女に頼んで消してもらったんだ。けれど、君が事故に遭って記憶を失った時、それと同時に力が復活してしまったんだよ。なぜかは分からない。でもね、消したはずの力が戻った。それは……偶然とは言えなくて。きっと、神は……と、そう判断したんだ」

「……桜くんの名前が証明してるよ。君はツクヨミの力を持つものだって」

 それまで、何も話さず眠っていたはずの緋翠がそう発した。

「月詠桜……月を詠むなんて、あの神そのままさ。桜もそう。サクラの“サ”は“サ神”っていう神。“クラ”は“座”ってこと。つまり……“サクラ”は“サ神のくら”なんだよ」

「なんだよそれ……ただのこじつけじゃないですか」

「そうかもしれない。でも、サクラにはそう言うがあるんだよ」

 真剣な目で話す緋翠を、彼はじっと見ていた。

「桜、君がこれを聞いてどう思うかは別だ。でも、ここには……君が必要なんだよ」

 赤夜にそう言われるが、桜は黙ってしまう。

「……考えさせてください……俺がここにいるべきなのか……ここにいていいのか、自分が何のために生まれてきたのか……考えたい。それまで、少し一人に……」

 彼はそれだけ言うと、自室へと籠ってしまった。

「やっぱり……受け入れられなかったんでしょうか……。ツクヨミの力があるなんていきなり言われても、あの子にはまだ……。僕のせいですね……申し訳ありません……」

「碧のせいじゃないよ。それに、いつかは伝えなければならないことなんだ。それが早まっただけ。時間を与えれば、彼ならきっと答えを出せる。我々がそうだったように……ね」



 自室に籠る桜。

「俺がそんな……じゃあ、親は……」

 赤夜から聞いたそれを、彼は反芻していた。

 頭を抱え、ベッドに座り込む。

「ずっと化け物だって……それがなんだよ。いきなり、神の力だなんて言われても……」

 考える。考えても、答えなど出てこない。頭が痛くなるだけだ……。彼は頭を軽く振ると、ベッドに入った。

 食事を摂ることなく、丸一日眠った。



「く……!く……ん!桜くんっ!」

 大きな声で目が覚める。

 重い瞼を上げ、かすむ目をこすりながら、桜はまだぼやける目の前を見た。

「よかった~!何かあったのかと思ったよ!?」

 目の前には不安そうな顔で自分を見下ろす緋翠の姿。

「緋翠さん……なんで……」

「何でって……桜くんは丸一日眠ったんだ。そりゃ心配になって起こすに決まってるでしょ!?それより……ごめんね……。僕が余計なこと言ったから……まだ聞かなくてもいいことを聞くことになって……かなり負担になったよね……」

 桜を見下ろしながら、彼が謝る。

「緋翠さんが悪いとか、それを話した赤夜さんがどうとか、俺はそんなこと気にもしてないです。でも、どうして自分がそんな力があるのか、何故……家族に捨てられたのか、それが気になるだけですよ。俺、もう少し考えたいんです。全然、考えても答えなんて出てこなかった。だから、答えが出るまで……ここでお世話になりながら、仕事をしながら考えていいですか……?だから……やってくれますか……俺の教育係を……」

 桜がそう言うと、緋翠は彼に抱きついた。

「桜くん!もちろんだよ!何でも教える!何でもしてあげる!だから……ありがとう……ここにいるって決めてくれて……」

 思わず涙が込み上げる緋翠。彼は、桜の肩に頭を置いた。

「緋翠さん……泣いてくれるのは嬉しいんですけど……俺の肩で涙……拭いてますよね」

 頭を振る緋翠。その度に肩が湿っていくのを感じていた。

 自分のために泣いてくれる人がいる。桜は胸が熱くなるのを感じていた―――。


 そして、桜がインビジブルに入社してわずか一週間後。

 初めて事件を担当することになった。

 その事件がきっかけで、彼は……。

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