Episode2

「まず、僕たちの仕事……表向きの仕事は探偵事務所なのね?人探しから迷子の動物探し、たまに……浮気現場とか。あ、この前は行方不明者を見つけたりもした。でも、その裏では霊障に悩まされていたり、霊的現象が絡んでる仕事もしてるんだ。それが、さっき言った除霊とか、社長が行ってるとかね。それで……桜くんは霊障って分かる?」

「霊障って……霊が憑いたり、霊気にあたることですよね?」

「そう。主に悪霊が多いけど、霊的な存在から干渉されることによって起こることで、それに中る人たちは、霊障の種別も度合いも様々なんだ。なかには、精神的なものだと思われていたのが、うちに来て霊障だと判明したこともあるし、その逆もある」

 彼は続けた。

「ただね、厄介なのが霊障ってほとんどの人は無自覚なんだ。本人が気づかないうちに発生してることが多くて、僕たちが視て初めて霊障に中ってることを知るケースが多いんだよ」

「霊障って、俺でも分かるものなんでしょうか……」

「分かる。というか、桜くんはずっと昔から感じてると思うんだけど……記憶にない?」

 桜は首を横に振る。

「そっか……まだんだ……。まあ、とりあえずは僕と一緒に行動することになるから、大丈夫だとは思う。僕たちの手に負えないのが来たら、社長に連絡するし、何とかなる精神で行こうか!」

 緋翠はそう言って微笑むが、彼は一抹の不安を覚えた。

「あの……ずっと気になってるんですけど……」

「質問なら大歓迎だよ!どうしたの?」

「さっきからずっと“社長”って単語出てくるじゃないですか。出張に行ってるとか、札をもらったとか、霊界とか……あの……俺ってそんな力、あるんですか……?いや、探し物が得意だとかそう言うのはあるんです。自分でも、どうしてここにあるのが分かったのか不思議なくらい、おかしなところから出てきたりとか、そう言うのはザラなんですけど……その……俺は除霊とか、そう言うの……」

 桜がそう言うと、緋翠はどこか悲しげな表情を浮かべた。

「……なんで消したんだ……絶対に必要なのに……これだから普通の人間は嫌なんだ……」

 彼はぎりぎり聞こえる程度の声で、そう呟いた。だがそれを、桜が聞き逃すことはなかった。

「消した……?どういうことですか……もしかして、俺の記憶が抜け落ちてるのと何か関係あったりするんですか!?」

 思わず、彼は大声を張り、緋翠に近寄る。その瞬間、彼は自分の体を押さえてうずくまってしまった。

「緋翠……さん……?」

「ごめん、君の感情が痛かったんだ……ごめんね、気にしないで。いつものことだから……それより君は、本当に何も覚えてないんだね……。君のその質問、答えるなら“イエス”だよ。」

 しばらくして立ち上がった緋翠は、そう答える。

 そして、やはり悲し気な目で桜を見つめた。

「全部……教えてあげる。だから、ちゃんと聞いて……ちゃんと思い出して。きっと……この国には何かが起こる……。それを僕たちが止めないと。……ね?」

 


「君は、小さいときも失くしものをよく見つけた?」

「ええ、多分ですが。曖昧なんです……記憶が抜けてから色々……」

「そう。今は失くしものを見つけるのはどう?得意?」

「得意って言うか……そこにあるのが分かるだけで、探してるつもりはないんです」

「どうやってわかるの?」

「これを見つけたいって思ったら、そこが光る気がするんです。きれいな光がそこにあるような……」

 桜はそう答える。それを、うなずきながら緋翠は聞いていた。そしてまた、質問を繰り返し、説明する。

「それが、君の力なんだよ」

「探し物を見つけるのが?俺の……?しょぼくないですか……」

「それをうまく使うことで、強大なものを見つけることが出来ると、僕は思うよ?それに……君の本当の力はそんなものじゃない。僕や社長なんかが手に入れたくても入れられない、どう足掻いても誰も手にすることが出来ない力を、君は持ってる。失くしものを見つけるのなんて、ほとんど力を使ってないに等しいんじゃないかな?」

 桜は首を傾げた。彼の言っていることが理解できない。

「こういう力を持ってる僕たちってね、力を使いすぎたり、下手に使ったりするとものすごく疲労感を感じるんだよ。ひどいときには動けないくらいの。少し使うだけでも、疲れを感じたりすることもある。君は、探し物を見つけると疲れを感じたりする?」

「いいえ……」

「それが、凄いことなんだよ。さっきだって、僕の部屋に入ったときもすぐ感じてた。あれに気づける人はそういないんだ。からね。普通の人間なら絶対分からない。力を持っていても、そうそう気付けないレベルなんだよ、社長の隠す力は。それなのに君はすぐに分かった。この時点で君の持ってる力は相当なものだ」

 彼は続ける。

「桜くん、君のその力……天からの授かりものだよ……。もちろん、その名前もね……」

「緋翠さん、それはどういう……」

「君は、三貴神を知ってる?」

 桜は「それって……あの日本神話の……」と口を開いた。

「そう。黄泉の国から帰ってきたイザナギが、禊で黄泉の国の汚れを落としたときに最後に生まれた三柱の神だよ。君はそれ……」

「そこまでだ」

 扉が開くのと同時に、声が聞こえた。

「社長……」

「碧、そこまでだ。それ以上は止めておくんだ」

 体格の良い、少し白髪交じりの髪に、三つ揃えのスーツを身に着けた紳士的な男性。彼を見た緋翠は“社長”と呼んだ。

「碧、勝手に話してはならない。その約束だったよな?」

 問いかける、優しい声。緋翠は渋々ながらもうなずいた。

「だったらそこまでだ。部屋に戻りなさい。……君が、月詠桜くんだね?初めまして。ようこそ……探偵事務所“インビジブル”へ……」

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