とある麻酔科医(ドM)転職先の地方病院(魔窟)で激動のサバイバル(現在進行中)

叛號 醍

第1章 激動の12月1日

第1話 予感の朝


 人はいつでも夢をみたがる。自分にとって心地よい物語なら尚更だ



 12月に入った日の朝、Mは暖房の効きすぎた当直室で目覚めた。昨夜も遅かった。日付が替わってから薄い布団にもぐりこんで4時間程、40代にはちょっと足りない睡眠時間に頭の芯が重たい。


 今日は新しい研修医がやってくる。数日前にやる気を見せて、初日の早朝の術後回診から参加すると挨拶にきた。若者の期待には応えてやらにゃあな、そう呟く。


 Mは乾燥して痒い頭をぼりぼり掻きながら、更衣室へ向かった。調節の効かない空調のせいで、のどの粘膜もいがらっぽい。階段をのそのそ降りながら、昨夜の事務長の電話を思いだす。



 嫌な予感をさせる話だった。明日から麻酔科診療部長兼副院長のHが前面にでて手術室を采配することになったという。


「M先生もお疲れでしょうから、これですこし楽になりますね――」

 いつものようにわざと能天気そうに話す事務長の電話はすぐに切れた。


 またHの口車に乗せられたな。これまでに何度も繰り返されてきた光景が目に浮かぶような気がした。



 引退間近の呆けかけた院長に、このままでは手術室が立ち行かないと訴えてきた。前任部長の運営方針を引き継ぎ、なんとか手術室を回してきたのはMだった。


 Mは疲れ切っていた。このところ、些細なことに感情的になることが増えてきた自覚があった。ふと、奥歯を噛み締めていることに気が付くことが何度もあった。



 Mの訴えを容れてかどうか。院長と事務長が、手術室運営についてEと会合するという話は聞いていた。


 Eは、前任部長を馘にした病院幹部が系列病院から引っ張ってきた男だ。前任のHはひょろっとした痩身で毎日違うピカピカのバッシュを履いてオープンカーを乗り回すような男だったが、丸太のような腕をした巨漢のEはまったく違うタイプだった。アクの強そうな外見とは裏腹にとても柔らかい話し方をするEに、院長と事務長は全幅の信頼をおいていた。


 だがしかし――毎週のように問題を起こしてきたのは、新任部長のEだった。



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 登場人物

 M 疲れ切った麻酔科医 ドM

 H ひょろい前任麻酔科部長 

 E いかつい新任麻酔科部長 

 院長

 事務長

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とある麻酔科医(ドM)転職先の地方病院(魔窟)で激動のサバイバル(現在進行中) 叛號 醍 @kaz399013

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