夏が終わる


「あー、あっついなー」



 とある公園にあるベンチにて俺はつい先程コンビニで買った棒アイスを口にしつつ、ぽつりと呟く。それに対し俺の隣で同じようにアイスが入ってある袋の封を開けながら雪坂が「暑いな」と言ってきた。



「でもまあ、あそこで雪坂に会うとは思わなかったわ。雪坂もアイス買いに来るなんてな」


「俺も同じ」

 


8月31日。夏休み最終日の今日、俺は明日提出の課題を終わらせるべく朝からずっと家に閉じこもって課題をし続けて、キリがついてきたので夕方少し外の気温が下がってきた頃を狙いアイスを買いに行って今に至る。



「あ。トンボ」


「えっ」



 アイスを食べていた雪坂がポツリとそんな事を言うので見ると、何匹か公園内をトンボが飛んでいる。



「…もう夏も終わりだな」


「えー、全然夏が終わる感じがしねえんだけども。毎日毎日クソ暑いし」



俺はそう言いながら残ったアイスを食べ終えレジ袋にアイスのゴミを入れていると、ふわりと微風が吹き髪を靡かせた。その風がなんだか少し涼しく思える。



「…でも、確かに朝方とか夕方は前に比べたら涼しくはなったかな?」


「ああ。蝉もあんまし鳴かなくなったしな」


「ついこの間まではうるさいくらい鳴いてたのにな」



公園内を見渡すも、公園にある木々からは蝉の鳴き声は聞こえずトンボが何匹か相変わらず飛んでいる。



(なんだか)



「…夏が終わるってなんか寂しい気分になるな」


「寂しい?」


「うん。夏が始まる前は夏なんてクソ暑いし嫌だったけどさ、いざ終わるとなるとやっぱり寂しいなーって。なんだかんだいって夏が好きだったんだな俺」


「…それ、秋が終わる時も言いそうだよな高瀬は」


「うっ…。それは」



雪坂に図星を突かれ焦っていると雪坂は面白そうに笑った。食べ終わったアイスのゴミをレジ袋の中に入れながら口を開く。



「いいと思うけど。春夏秋冬があるのは日本くらいなもんだし、そうやって季節について考え愛でるのはいいことだと思うぜ」


「そうかな…」


「うん。でもここ最近は夏と冬が極端だなと思うけどな」


「あーそうそう!学校とかエアコンないとやってらんねえよ。夏は暑いし冬は寒いし…」


「ははっ、そうだな」



 そうこうしているとどこからか防災無線のチャイムが流れてきた。夕焼け小焼けのメロディと共に子供達に向けて帰宅を呼びかける音声が聞こえる。あれ、もうこんな時間だったっけ?


 ポケットから携帯を取り出し画面を開くと時刻は18時を表示していた。



「さて、もう18時だし帰るか」



雪坂の言葉に俺はこくりと頷き、携帯をポケットに入れてベンチから腰を上げた。…本当はもっと雪坂とゆっくり過ごしたかったが仕方ない。いや、別に変な意味ではなく。


 公園内を歩き敷地外に出ようとした所1匹の蝉が鳴き出した。ツクツクボウシが賑やかに鳴くのが聞こえ、俺と雪坂はお互い顔を見合わせる。少ししておかしそうに笑った。



「ぷ。今頃から鳴き始めんのかよ蝉は」


「まだまだ夏だなー」



 俺達はお互い笑いながら公園を後にし帰路へとついた。



「あー、明日からまた学校だなー。嫌なような嬉しいような」


「また勉強が始まるな」


「うう…、がんばろ。でも来年の夏も楽しみだな」


「夏になる前は嫌だとか来るなとか言うんじゃねえの?」


「うるさい」


 俺の話に時折面白そうに笑う雪坂を眺めながら、俺はやっぱり明日からの学校が楽しみだなあと心から思った。


 (今年の夏は雪坂とも遊びたかったけどあんまり遊ぶことができなかったから、来年の夏はいろいろと遊びたいな)



蝉は鳴くけど日が落ちるのは段々早くなってきたし、夕方から夜にかけての風はやっぱり涼しい。改めて夏が終わるんだと俺は実感し夏の終わりを名残り惜しく思いながら、俺と雪坂は夕暮れ前の道を歩き進めた。

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誰も知らない話 人物・設定集 あずき @AZU-mitu

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