第2話息苦しい

お手洗いと洗顔を済ませ、リビングに歩をすすめる俺。

廊下を歩んで、リビングに近づくにつれて油がぱちぱちと弾く音やおかずの匂いがしてきた。

リビングに足を踏み入れ、キッチンで朝食のしたくに励む従姉に挨拶を告げた。

「柚華さん、おはよー」

「おはよ、けーくん。眠そうねぇ、また夜更かしぃ?」

俺の顔を一瞬見て、手もとのフライパンに目線を戻しながら挨拶を返して、訊いてきた従姉。

彼女の波巻きされた茶髪の巻き髪で大学か、と思考が僅かに遅れながらも認識した俺だった。

「そういうんじゃ……」

「送り迎えしたげられるけど、今日どうする?」

「お言葉に甘えて、お願いします……」

「あいよーっ。朝食できたらささっと食べて、着替えなよー」

「はい……」

ダイニングチェアに腰を下ろし、朝食が並べられるのを待つ俺。

テレビは点けられておらずに、キッチンからの物音だけがリビングに響く。

ダイニングテーブルに腕を載せることなく、太腿に握りしめた拳を置いて待った。

母親も父親も食卓を囲まないリビングが、やけに息苦しい。

俺の住処であるにも、かかわらずにだ。


ダイニングテーブルに二人分の朝食を並べ終えた従姉——智栄柚華ちえいゆかが正面のダイニングチェアに腰を下ろして、二人が合掌して、

「いただきます」

「いただきます」

と、朝食を摂り始める。

味噌汁をずずっ、と一口啜り終えた智栄が、徐ろに口を開いた。

「私のこと……嫌い、かな?」

「嫌いじゃ……ただ、どうすればいいか……解んなくて」

「そっか。嫌われてなくてよかったー。押しかけてきて、居候ーみたいな感じでごめんねー」

申し訳なさそうに左頬をひとさし指で掻いて謝る彼女。

「そんな……っとぅ」

彼女の過去の面影が音を立てて、崩れていく感覚が身体を襲い、上手く言葉を紡げないで喘ぎ苦しむような呻き声が漏れるだけだった。


伊佐戸慧翔おれ智栄柚華いとこも対処を倣っていないのだから——不慣れ、なのだ。

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オトナに見えた彼女の胸の内が凪げば 闇野ゆかい @kouyann

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