7日目(日曜日 仮)薪ストーブの部屋の夜「日曜日」
夕食にしようとキッチンに入って冷蔵庫を開けると、食材やら飲料物が所狭しと置かれていた。
きっと、さっきの黒い服の男が補充したに違いない、と私は思った。
黒い服の男のビリヤードの腕前はプロ級だった。
私なんて、一度として、9個のボールをノーミスでポケットインさせたことなんてないのに、彼は、ノーミスで三回続けて9個のボールをポケットインさせたのだ。的球を確実にポケットインさせるのと同時に、次の的球を狙いやすくするための位置まで白い手玉をコントロールして配置させていた男の技術は、観ていて惚れ惚れとしたものだった。
黒い服の男がこの部屋を訪れる前まで、ビリヤード台と玉はあったものの、キューは無かった。ということは、あのビリヤード台は、黒い服の男のために用意されたものだったかもしれない。
が、しかしだ。あれくらいの腕前があるなら、こんな部屋に置いてあるビリヤード台で一人で撞くことなんて望むだろうか… ましてや、素人同然の私に腕前を見せつけることだってほぼ意味をなさない所業のはずだ。
では、いったい、なぜ…
この薪ストーブのある部屋と白い部屋で生活している理由なんて、考えたところで満足がいく結論には達しないことをこの7日間で思い知らされているので、私は考えることをやめた。
その代わりに、あの黒い服の男が来た今日を日曜日にしよう、と私は一方的に決めた。毎日、一粒ずつ並べている米粒はこの部屋で暮らしている日数を表しているが、これで、曜日も加えることができる。
そんな他愛もない決め事に満足していると、ベッドの背もたれがせり上がって傾斜ができた。
就寝の時間だ。
当たり前だが、7日経っても、就寝の合図は変わることはなかった。
ベッドに行くと、一冊の分厚い本が置いてあることに気が付いた。
見ると、『マクシム・ゴーリキー全集』と背表紙に印刷されていた。本を開くと、小さい活字で1ページに三段に渡って印刷されていた。
(この本も、あの黒い服の男が置いていったものか…)
確か、『吾輩は猫である』だったか、1ページに二段の本は読んだことがあるが、その本さえ、最後まで読めなかった覚えがある。ましてや、三段…
私はすっかり面倒くさくなって、1ページも読み終わることなく本を床に置いて眠ることにした。
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