2週目
7日目 薪ストーブの部屋の午後「黒い服の男」
ベッドで目覚めて、この部屋に自分が住んでいることを自覚してから7日目に客人が来た。正確に言えば、私がこの部屋に居ない間に、客人がこの部屋に来ていた。
午後、白い部屋で過ごし終わって帰って来た私が白いドアを開けると、見たこともない男が一人でビリヤード台で玉を撞いていた。
男は、黒いシャツを着て黒いスラックスズボンを履いていた。口ひげをたくわえ、髪の毛はポマードかなんかで整えられていた。年齢は、私よりもひとまわりくらい若いだろうか。
黒い服の男は部屋に入ってきた私に一瞥もくれることなく、大きい目を瞬きさせずに白い手玉を見つめて素振りをし、そして勢い良くキューで撞いた。
いつの間にかビリヤード台が置いてある空間の壁伝いにストールが2つあって、1つのストールの背もたれに男が着てきたと思われる黒いアウターが掛かっていた。
「ええっと、どちら様で?」と小声で尋ねてみたが、黒い服の男は私の声が聞こえていないのか返答をせずにラシャに一つだけ残っている9番ボールを見据えながらキュー先のタップにチョークを塗った。
先程、発した私の声が部屋の空間に所在なく漂っているのを感じながら、私はアウターが掛かっていないもうひとつのストールに座った。
男はどうやら
この後、ブレイクから最後の9番ボールをポケットするまでノーミスのまま3ゲームを終えると、男は、玉が無くなったラシャに静かにキューを置いて、ストールの背もたれに掛けていたアウターを着てから黒いドアを開けて出て行った。
結局、男は一言も発しなかったし、私の存在を完全に無視するかのように振舞い、そしてこの部屋を出て行ったのだ。
男が出て行った後に、私はふと思って、黒いドアを開けようとしたが鍵が掛けられたらしくドアは開かなかった。
おそらく、黒いドアの先がこの部屋から外に出る玄関なのだろうと思ったし、鍵が掛けられているということは、私はこの部屋から外に出てはいけないということなんだろうとなんとなく悟った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます