第9話

「人ごみにつかれてしまいました。私、すこし中庭で休んできます」

「そうかい? ライラ、気を付けて行っておいで」

 ライラは舞踏会から抜け出し、中庭で空を眺めていた。


「ライラ様、いかがされましたか?」

「……マルク様?」

 いつのまにかマルク王子が、ライラのそばに立っていた。

「貴方の仮面の力はすごいですね。兄上を変えてしまった」

「そんなことはありませんわ。本来のゴードン様に戻られただけだと思います」

「それが余計なことだと言っているんだ!」


 怒りをあらわにしたマルク王子が、ライラに大声をぶつけた。

「あの仮面をつけてから、兄上は私の行動を咎めたり、民のためと言って贅沢をひかえるよう父上に進言したり、余分なことをするようになってしまった!!」

 ライラをつき飛ばそうとしたマルク王子の手を、暗がりから差し出された手が押さえつけた。

「誰だ! 私を誰だと思っている!?」


「マルク、乱暴はやめないか?」

「……兄上!?」

 マルク王子は一瞬ひるんだが、仮面が外れるよう、乱暴にゴードン王子の顔を叩いた。

 白い仮面が、暗闇に飛んで消えた。

「兄上は、仮面がなくては人前に立てない臆病者ではないか!」

「ああ、そうだった。でも、今は違う」

 ゴードン王子は、飛んでいった仮面を拾い上げた。仮面には泥が付き、顔につけるための紐はちぎれていた。


「ライラ様、せっかく作っていただいた仮面がこわれてしまいました。申し訳ありません」

「いいえ。ゴードン様にお怪我がなければ……でも、仮面は……」

 ゴードンはやけどの跡がある左側の顔を隠していた髪をかき上げて、優しく微笑んだ。

「仮面のおかげで、人と接することが怖くなくなりました。いまはもう、仮面が無くても大丈夫です」


 月明かりに照らされたゴードン王子の表情は、穏やかできれいだとライラは思った。

「さて、マルク。今日のことも含め、いままでの悪行を父上に報告させてもらう。覚悟をしておくように」

「兄上!?」

 ゴードン王子はライラを連れて、広間に戻った。

「おや? 仮面はどうした? ゴードン」


「父上、仮面はもう必要ありません。別件ですが、マルクのことで後ほどお話したいことがあります」


「兄上!」

 ゴードン王子はすがるようなマルク王子を悲しそうに見つめた後、国王に仮面を手渡して言った。

「この仮面のおかげで私は救われました」

「確かに、仮面をつけてからは貴族の集まりなどにもよく顔を出し、意見も言うようになったな、ゴードン」


 ゴードン王子はにっこりと笑った。

「ライラ様、よろしければ私と婚約をしていただけませんか?」

「えっ……?」

 ライラは突然の申し出に、とまどいつつも赤面してうつむいた。

「父上、よろしいでしょうか?」

 ゴードン王子はまっすぐに、グローサ王を見つめて問いかけた。


「資源に恵まれたピコラ国との付き合いが深くなるのは悪くない選択だろう」

 グローサ王はそう言って、ライラを見つめて言った。

「答えは急がないのでご考慮いただきたい」

 騒ぎを聞きつけたクロース辺境伯が、ライラの隣に立った。


「ライラ、心はきまっているのかい?」

 父親の質問に、ライラは静かに頷いた。

「……はい。ゴードン王子、私でよろしければ、これからもよろしくお願い致します」

「ありがとう、ライラ様」


 ゴードン王子はライラの手を取ると、その指先に口づけをした。

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仮面の王子は真実の愛を知る 茜カナコ @akanekanako

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