第4話 惨々な惨状
王城内は予想通り、いや予想以上の惨状だった。
廊下や壁、果ては天井にまで飛び散った血痕は未だに乾いていない部分さえあり、いったいどれほどの血が流れればこうなるのか見当もつかない。
血臭は濃厚さを増すばかりで一歩進むごとに肺を冒されているかのような錯覚すら覚える。どれほど進んだだろうか、ようやく玉座の間へと続く扉の前に辿り着いた。
皆ここまでの道のりで精神的な消耗がかなり激しく、中には道中で胃の中身をぶちまけてしまった者もいる。
「さて改めて確認だが...各自自分の身を最優先。決してこちらから敵対行動をとらないように徹底しろ。そして絶対に私より前に出ないように、でないと命の保証はできない」
これまで以上に真剣な面持ちの陛下の表情に皆気を引き締める。そして扉は陛下の手によってゆっくりと開かれた。
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王城における玉座の間とはかなり重要な場所である。国王の威光を国内外に示す場であり、広大かつ荘厳に作られていることが多い。千年王国の玉座の間もご多分に漏れず広大な空間を有することで内部はかなり広々とした造りになっていた。通常時であればかなりだだっ広い空間で持て余し気味であったのではないかと思われる。
だが......今はそのだだっ広い空間も手狭に感じるほどに空間が圧迫されていた。
あぁ、地獄とはこの場を示す言葉であったか
そう思わずにはいられない。
うず高く積まれた屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍屍
血臭はもはやこれ以上ない程に極まり体内を容赦なく冒してくる。この場にいるだけで屍体の怨嗟や憎悪が身体を這ってくるようだ。
気が遠のいていくのを必死に抑え込んで周囲を警戒していると、そんなこちらの様子を気にも留めない者達が3人ほどこの場にいたことにようやく意識が向いた。
うち二人は夜闇を閉じ込めたような真っ黒な頭巾で首までをすっぽりと覆っている。その下、むき出しの上半身は筋骨隆々であり、鍛え上げられたその鎧は着用者の凶暴性を表すように躍動していた。そんな二人が何をやっているかは少し見ていればすぐに分かった。
そしてこちらに背を向け、床に座り込んでいる青年は身に纏うボロ布を朱に染めながら一心不乱にナニかをしている。...いや、ナニかなんて濁すのはやめよう。
聞こえるのだ、はっきりとした咀嚼音が。見えるのだ、青年のやせ細った身体に隠れ切らない鮮紅の塊が。
理解と同時私の中の何かが突如湧きあがり眼前の者たちへの理解を諦めた。こんな、こんな冒涜的行いがまかり通っていいはずがない!こんな存在を許してはいけない!
行方も知らぬ義憤に駆られた私が彼の者へと一歩を踏み出そうとして――
「ヴァレフォル」
その咎めるような口調に私は冷静さを取り戻した。
「...申し訳ございません陛下」
「いい。正直私もこれほどとは思っていなかった。さっさと用事を終わらせてこの場を離れよう」
そう簡潔に陛下がおっしゃると一人青年へ向けて歩き出した。
「...久しぶりだねルゼ」
咀嚼音が辺りに響いている。
「...聞こえなかったのかい?ルゼ」
先程よりも強く呼びかけると、咀嚼音は止まった。
ゆっくりと青年がこちらを振り向く。その緩慢な動作ですら底知れない恐怖を我々に与えてくる。
そして振り向いた青年は声の主が誰かを確認すると、その端正な顔に屈託のない笑みを浮かべてこう言った。
「やぁ、久しいねルース」
暴食魔神の徒然なる生活~誰かこの飢えの満たし方を教えて~ 矛盾ピエロ @hokotatepiero
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