第22話 社内討議

 中川智之と太田晃一は相談して社内討議の日時を金曜日の4時に決め、太田晃一は会議室を出た。

 ふみ子と相田陽菜は中川智之の指示の下で、資料作りに励んだ。6時になると、中川智之に呼ばれた。

「ニンニン、鬼谷さんと一緒に夕飯を食べているのか?」

「ハイ」

 ふみ子はその質問にがっかりしたが、笑顔で答えた。

「今日、宅急便で送ったから、明日には届くと思うから、そのつもりでね」


「何の話?私も混ぜて」

 相田陽菜は二人の間に入り込んだ。

「な、なんでもないよ。野菜の話をしていただけだよ」

 ふみ子がいい訳めいて答えると、相田陽菜はふみ子の額に人差し指を突き付けた。

「本当?抜け駆けなしよ」

 相田陽菜はドスのきいた声でふみ子に警告した。

「ぬ、抜け駆けなんて。中川さんは私以外の人が気になっているだけだよ」


「お、俺?俺、だれを気になってるって。いやだなぁ。俺、そんな気になってないよ」

 中川智之は否定をしても、動揺を隠せず、頭をかいた。

「さぁ、もう帰ろう。茨城は本当に遠いんだ」

 中川智之は話題をかえて、帰り支度を始めると、太田晃一が顔を出し、戸締りなどをして、一緒に帰った。


 ふみ子が家に到着してから、約束の時間に畠山由紀は夕飯を食べに来た。

 その日は母も一緒に3人で他愛ない話をしながら、なごやかな時間を楽しんだ。


 社内討議のための資料作りは順調に進み、水曜日の5時には終わった。

「野菜ありがとうございました。今日から使い始めています」

 ふみ子は中川智之に礼を言った。

「ああ、うん。喜んでもらえれば、俺も嬉しい。ニンニンと一緒にまた来いよ。野菜のリクエストがあれば、言ってくれよな」

 中川智之は白い歯を光らせながら、さわやかに答えた。


「ふみ子の目がやっぱり怪しい。しょうがないなぁ・・・私は諦めるか。金曜日、打ち上げ会やろうよ」

 相田陽菜はふみ子の肩を抱きながら、提案した。

「俺、茨城だから、夜はダメなんだ。来週の水曜日にまた、来てくれと言われているから、その時にお茶だけならOKだ」

 相田陽菜はがっくりと肩を落とした。


「お茶が終わった後、うちにおいでよ。ごちそうを用意しておく。そうそう、畠山由紀という人を紹介するからね」

「うん。まぁ、それもいいでしょう。水曜日じゃなくて、今週の金曜日でいい?」

 ふみ子は快く承諾し、太田晃一を内線で呼び出した。そして、社内討議の最終的な打ち合わせをした。


 金曜日に予定通りに社内討議が開催され、赤池社長も同席して、中川智之がプレゼンテーションをした。

 質疑応答の時間になると、さまざまな質問が出た。


「コールセンターと相談コーナーを用意するのか」

―― 自治体の人口に合わせて、オンラインとコールセンターで相談できるようにする。役所にも相談コーナーを設置する


「地域デジタル通貨は税金から捻出するのか」

―― クーポンはボランティアをして、受け取れるもので、地方税の支払いや地域の小売店、飲食店で使えるものとする。地産地消を奨励するもので、自治体で発行することができるものとする。


「重い障害がある人は障害年金と生活保護費がないと、生活が成り立たないのではないか」

―― 重い障害がある人はクーポンと追加の生活保護費を受け取れるものとする


「やってみる価値はありそうだな」

 赤池社長はつぶやくように言うと、皆に意見を求めた。

「面白そうですが、コストがかなりかかります。一社では無理でしょう。メーカーにも賛同してもらわないといけませんし」


「高木君、メーカーと官僚の橋渡しができるかね」

 赤池社長は開発部のトップである高木事業部長と視線を合わせた。

「では、やってみますか」

 高木事業部長は覚悟を決めたようにうなづきながら答えた。


 ふみ子と中川智之は視線を合わせ、うなづいた。

 相田陽菜は太田晃一とハイタッチをした。


「水曜日の4時に結果と今後について話し合いたいから、また、来てね。それと、俺がいないからって電子政府の話をメインボードでチャットしないように」

 太田晃一はふみ子と中川智之に別れの挨拶をして、赤池社長と会議室を出た。

 中川智之も爽やかな笑顔で「またな」とふみ子の肩をポンと叩いてから帰った。


 ふみ子と相田陽菜は会議室の後片付けをしてから、一緒に帰った。

 帰る途中で、ふみ子は相田陽菜に畠山由紀がどんな人なのか語った。そして、おそらく、中川智之は畠山由紀を気に入っているが、畠山由紀にはその気がないと説明した。


「なんで、ふみ子は畠山さんに夕飯を作っているの?」

「うーん。なんか、成り行きでそうなっちゃったの」

「ふみ子は畠山さんとそういう関係になりたいんじゃないの。太田さんにすればいいでしょ。あんなにふみ子に尽くしてくれて、御曹司の太田さんは顔はイマイチだけど、いい人よ。性格イケメンを選ばずに、外見で人を判断するから、人生がややこしくなるんじゃない」

「でも、太田さんに告白されたわけじゃないし、イケメン好きの陽菜ちゃんにそういう風に言われたくないよ」

「わ、私はイケメン好きだけど、ちゃんと彼氏がいるもん。イケメンでもなければ、御曹司でもないけど。だから、ふみ子は私みたいに妥協して、太田さんに夕飯を作ればいいじゃない」

 ふみ子は視線を合わせられなくなり、黙ることにした。


 畠山由紀と相田陽菜は顔を合わせて自己紹介すると、相田陽菜はふみ子の肩を抱いた。

「この、イケメン好き好き妖怪め」

 畠山由紀は相田陽菜の言葉に爆笑した。

 ふみ子の母も相田陽菜の言葉に賛同して、二人から責められ、畠山由紀がふみ子をかばい、4人で笑いあいながら食事を楽しんだ。




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