第21話 社内討議の打ち合わせ
相田陽菜をみかけると、ふみ子は駆け寄り、今まで会えなかったことを詫びた。
「気にしなくていいよ。今日になって、高田常務は辞職届を出したみたいよ。ざまぁみろって」
「え?」
ふみ子は相田陽菜の言葉に驚いて、太田晃一と視線をあわせた。
「うん。そうなんだ。なにか考えているのかもしれない」
太田晃一は腕をくみながら、うなづいた。
「2階の会議室を用意できたんだけど、今、パソコンのセッティングをしているから、ラウンジでこれからの作戦を練ろうよ」
相田陽菜はふみ子の腕をひっぱり、エレベーターホールに向かい、太田晃一も後に続いた。
「電子政府になると、公務員はいらなくなるんじゃないの?」
相田陽菜は自分の電子政府に対する見解を確認しようとした。
「そこまでは、できないよ。公務員は削減できるかもしれないけど、必要だと思う」
ふみ子は自信がなさそうに小声で自分の意見を述べた。
「どこまでを電子政府でやるべきか。それが討議の主題になるよ。フミタンじゃなくて、鬼谷さんの考えが聞きたいんだ」
太田晃一にしては珍しく、静かな声でふみ子の意見を求めた。
「そ、そうですね。私の考えは、国民全員にホームページを作って、そのホームページから、政府の情報がみれて、自分の要望も政府側に伝えることができて、税金などの各種申請もできるようになれればと思っています」
「ふーん。電子政府になると、わざわざ税務署や役所に行かなくてもよくなるのか」
相田陽菜と太田晃一は顔を見合わせてうなづいた。
「この案はいけるかもしれないな。あとで、ダイジンが来たら、ダイジンじゃない中川さんにもきいてみよう」
太田晃一は満足気に微笑んだ。
「ふみ子と太田さんて、いつからそんなに仲良くなったんですか?」
相田陽菜は太田晃一とふみ子を交互にみながら、目を細めてきいた。
「わ、私たち、そ、その、い、いろいろあって・・・」
ふみ子は口ごもって、相田陽菜の質問になんと答えるべきか迷った。
「俺たちは皆、仲間だ!勘ぐるな」
太田晃一は人差し指を立てて、その指を相田陽菜の眉間の前に置いてから、時計の針のようにぐるぐる回した。
「あやしいけど・・・まぁ、いいか」
相田陽菜は二人の関係を聞き出すのをあきらめて、席を立った。
「もう、セッティング終わっているだろう。会議室に行こう」
太田晃一とふみ子も席を立ち、飲み物を買い、会議室に向かおうとしたところで、太田晃一のスマホが鳴った。
「中川さんを迎えに行くから、二人は先に会議室に行ってくれ」
ふみ子と相田陽菜は太田晃一の指示に従って、会議室に行き、太田晃一は中川智之を迎えに行った。
太田晃一がスーツ姿の中川智之を連れて、会議室に入ると、
「わぉ」と相田陽菜が声をあげた。
そして、ふみ子の肘を突いた。
「イケメンだからって、よだれを垂らすな」
太田晃一は相田陽菜の額を人差し指で突いた。
「イケメンに目がない相田陽菜と申します。よろしくお願いします」
相田陽菜は突かれた額を手で押さえながら、会釈した。
「私は中川智之と申します。田舎者なので、いろいろご指導、お願いします」
中川智之は相田陽菜の前に右手を差し出し、二人は握手した。
「俺、社内ではダイジンと呼ばずに、中川さんと呼ぶからな。他人の目があるから」
太田晃一は中川智之の肩に手を置いた」
「うん。わかった。俺もコウイチと呼ばずに、太田さんと呼ぶよ。フミタンのことも鬼谷さんと呼ぶからね」
中川智之がふみ子に視線を向けると、ふみ子は微笑みながらうなづいた。
「ところで、鬼谷さんにもきいたんだけど、中川さんの考える電子政府でどこまでやることになるのか、説明してくれないか」
太田晃一は中川智之に席に座るように促しながら、意見を求めた。
「俺の考える電子政府は国民全員にホームページをつくって、そこから政府側と国民が双方向に情報の交換ができるようにして、チャットボットで国民の質問や要望に応える。そこから、クーポンも受け取れるようにしたい」
中川智之は熱く語った。
「チャットボットかぁ。勿論、AIだよなぁ。金がかかるなぁ」
太田晃一は中川智之の意見をきいて、視線をそらした。
「AIチャットボットはまだ、不完全だけど、オペレーターを通じて、各部署へつなぐということもできるかもしれませんよ」
ふみ子は小さな声で二人の意見に口を挟んだ。
「うん。チャットボットはまたの機会にして、今は現実的な路線を選ぼう。文字形態でやりとりをするようにすれば、コストは抑えられるかもしれない」
太田晃一は冷静に判断をしようと、自分の意見を加えた。
「でも、テキストが打てないお年寄りはどうするんだ。俺は国民全員に優しい政府を目指しているんだ」
中川智之が太田晃一の意見に反論した。
「役所でサポーターを用意したり、電話のオペレーターでもいいんじゃない。全部デジタルにしようとするからコストがかかると思われる」
相田陽菜も自分の意見を加えた。
「今、問題になっているのはAIチャットボットのコストか?」
中川智之は自分の理想には金と技術的な問題点があるのだと気づいた。確かに、お年寄りの話は家族でも理解するのが困難な場合がある。
「よし、わかった。チャットボットは諦めよう。でも、文字形態のテキストで双方向でやりとりができるというのは、外せない。そして、地域デジタル通貨かベーシックインカムのどちらかもつけたい」
中川智之は悔しかったが、自分のIT知識だけで実現することは不可能だとわかっているので、他の3人の意見を受け入れた。
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