第18話 太田晃一の過去

 3人は車から降りると、自販機の近くにあるベンチに座り、中川智之を待った。

「ニンニン、運転サンクス。お礼に飲み物おごってやる」


「そういうことなら、遠慮なく。一番高いエナジードリンクにしようっと」

 畠山由紀がエナジードリンクを選んだ。


「お前って、選ぶものもオッサン臭いんだな」

 太田晃一がつぶやくように言った。


「オッサンって、ジャガイモ顔に言われたくないよ」

 畠山由紀はすねたように口をすぼめて言い、二人のあいだに冷たい空気が流れ、

ふみ子は話題をかえた。


「ダイジンまだかなぁ。マトンカレーの作りかた知っているの?」

「僕、料理できないんだ。ダイコン知っているかなぁ」

「マトンは臭みがあるから、豚のほうが無難だぞ」

 太田晃一がまともな意見をだしたところで、ミニトラックがふみ子達の前に駐車した。


「待った?2週間ぶり」

 車から降りてきたのは、白いポロシャツに白い歯が光る爽やかイケメンの中川智之だった。

「ダイコン、昨日もチャットで会ったけど、それより、マトンカレーの作り方知っているか?」

 畠山由紀はとにかくマトンカレーが食べたいらしい。


「マトンカレー?俺、バーベキューにしようと思っていたけど、カレーがいいのか?」

「俺、バーベキューでもいい」

 太田晃一は即座に同意した。


「私もバーベキューでもいいです」

 ふみ子も太田晃一の反応をみて、賛成した。


「じゃぁ、僕も、バーベキューでいいや。でも、マトンかラムがあったら、買ってほしい。僕、マトンとラムが好きなんだ」

 畠山由紀はふみ子の反応をみて、自分の意見は抑えたらしい。


「わかった。わかった。お前はラムね。フミタンとコウイチは?」

「俺は生もの以外なら、なんでもいい」

「私もエビ以外なら」

 ふみ子と太田晃一は苦手なものをアピールした。


「じゃぁ、ラムとチキンでいいか」

 中川智之は意見をまとめると、畠山由紀は中川智之の袖をひっぱった。

「僕、チキンは苦手なんだ」

 中川智之はふぅーっと息を吐いた。


「わかった。ラムとビーフならいいか?」

 中川智之は畠山由紀の顔を下からのぞいた。


「うん。OK」

 畠山由紀は笑顔になり、人差し指と親指でマルを作った。


「お前って、痩せているのに、食い物に対して異常な執着心があるよなぁ」

「それ、どういう意味だよ」

 畠山由紀は中川智之につっかかった。


「意味なんてないよ。お前の性格についての感想を述べただけだ」


 中川智之が悪口をいっているわけではないと判断したふみ子は仲裁を試みた。


「まぁまぁ。ニンニン。人の判断は人それぞれ。ニンニンが性格がいいのは私が理解しているから」

 ふみ子は畠山由紀の肩に手を置いた。


「フミタンはやっぱり、僕の味方だね」

 畠山由紀はふみ子と視線を合わせて、笑顔になり、ふみ子はその笑顔にドキリとした。


「さぁ、ショッピングタイム。機嫌がなおったようだな」

 太田晃一はふみ子と畠山由紀の背中を押して、スーパーに入り、中川智之もうしろに続いた。


 畠山由紀は怒りっぽいが、怒りが静まるのも早くて、ラムがあったせいもあるかもしれないが、会計を済ませるころには、冗談も言い出して、すっかり機嫌をなおしていた。


 ふみ子は、畠山由紀の笑顔に対する中川智之の視線が温かいのに気づいた。そして、自分が畠山由紀に対して、嫉妬しているのだと、結論づけた。でも、嫉妬したところで、中川智之が自分のものにならない。畠山由紀は自分のことを貴重な能力だと言ってくれているのに、自分は嫉妬していて、自己嫌悪に陥り、ため息をついた。


「ため息つくと、ため息の多い人生になっちゃうぞ」

 太田晃一はそう言いながら、目を上に向けて、口を曲げ、ヘンガオをつくった。


 その様子にふみ子はプゥーッと吹き出した。


「また、コウイチはフミタンを笑わせている。起業より、漫才師を目指した方がいいんじゃないか」

 畠山由紀は太田晃一とふみ子の間に入りながら、太田晃一をふみ子に近づけさせないようにした。


「え?なんで、お前知っているの?」

 太田晃一はびっくりした顔で声も大きくなった。


「え?マジで?冗談で言っただけなのに」

 畠山由紀も太田晃一の反応にびっくりした。


「ああ、冗談か。俺の過去を知っているハッカーなのかと思った」

 太田晃一は手を胸に当てながら言った。


「本当に漫才師を目指していたんですか?」

 ふみ子もびっくりしたことで、声が大きくなり、他の客も振り返った。


「うん。大学を卒業して、友達は公務員や会社員になったけど、俺は飲食店でバイトして、漫才師を目指していたんだ。3年たっても、ぜんぜんダメで、両親に説得されて、今の会社に入ったの。飲食店でバイトした経験とITの会社に入ったことで、起業を思いついたわけ。でも、俺、地方の知り合いは少ないから、ダイジンにも声をかけて、ここへも来たの」

 太田晃一は照れ笑いをして、中川智之の肩に手を置いた。


「俺、一人で悶々とチャットして、自分の考えが世の中に広まらないことにイライラしていたんだ。星が俺にエールを送ってくれたのかなぁ」

 中川智之は太田晃一と肩を組んだ。


「僕にとっても、フミタンは星のエールだ」

 畠山由紀はふみ子の肩に手を置こうとすると、ふみ子はその手を太田晃一の肩に載せ、自分は畠山由紀の反対の肩に手を置き、もう片方の手を中川智之の肩に置いて、円陣を組んだところで、4人は笑いあった。


 スーパーを出ると、太田晃一は畠山由紀を中川智之のミニトラックに乗せようとした。畠山由紀は反抗しようとしたが、山道でお前の運転は危ないからと理由をつけた。ふみ子は中川智之の車に乗りたがったが、ここで、自分の気持ちを皆に悟らせるわけにはいかず、渋々、太田晃一の車に乗り込んだ。


 太田晃一は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。

「あいつのこと、好きなの?」

「え?あいつって?」

 ふみ子は自分の気持ちが見透かされているのではと思ったが、素知らぬフリをした。


「ニンニン、狙っているんじゃないかと思うんだ」

 ふみ子は頭が混乱してきて、聞き返した。

「狙っている?何を?」

 ふみ子は自分の気持ちを見透かされたわけじゃなくて、誤解されている可能性が高いと判断した。


「ニンニン、君を狙っているんじゃないかと思うんだよ。しっかりしないと、またセクハラされるぞ」

 太田晃一の声が大きくなり、ふみ子は誤解を解こうと試みた。


「ニンニン、悪い人じゃないし、セクハラするような人ではありません。誤解です」

 ふみ子は毅然とニンニンを擁護した。


「そうか、それならいい。でも、気をつけるに越したことはない。あとね、社長が戻ってきたかったら、正社員として雇いなおしてもいいと言ってくれているんだ。ニンニンとダイジンと一緒にどうですかって、どうする?」
















 

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