第14話 リベンジ

 翌日、アンドロメダの議論帝国にブルーマウスが入室すると、シナリオ通りにチャットが進んだ。


 ふみ子、ことアンドロメダがカワダって私の幼馴染と同じ名前だとメインボードにタイプすると、ブルーマウスが反応した。


「官僚に幼馴染がいるって本当?」


 ブルーマウスはメインボードにはタイプしないで、アンドロメダのメッセージボックスにささやいた。


「そういう個人的なことはチャットでは話せません」と返信し、大黒天にブルーマウスから反応があったことを報告した。


 ブルーマウスはメインボードでも大黒天にその話は本当のことか確認してきた。


「信じるかどうかは個人の判断に委ねる」


 大黒天はメインボードに書き残して、チャットルームを退室した。

 アンドロメダも今日はここまでとルームを閉じた。


 翌朝、ふみ子は母にチャットの友人が農業の手伝いをしないかと誘われたと相談した。


「農業なんて、できるの?お医者様に相談して、お医者様がいいといったら、やっていいよ」

「うん。今日きいてみる」


 母は心配したが、結婚するわけでもないわが子が無職でいるよりは・・・と考えたらしい。ただし、お医者様がダメだと言ったらダメと何度も念を押された。


 その日、診察をいれて医者にきいてみると、すんなりOKしてくれたが、

 ―― 働き始めてから週に一回様子を見させてください。3か月後にもう一度、クリニックに来る回数を相談しましょう。2年くらいは薬を飲み続けないといけないでしょう。 ――という返事に、ふみ子の心境は、2年も薬を飲み続けないといけないのかという落胆と、農業という就職口がみつかった希望で気分は五分五分だった。


 家に帰って母に医者の言葉を伝えた。

「お医者様がいいと言ってくれるなら、私は反対できないよ」

 そして、何事も自分で決める前にクリニックに相談するようにと念を押された。



 太田晃一は忙しかった。案の定、ホームページの連絡先にメールが来たので、バイトを雇って、シナリオを渡し、高田常務と会社で会わせた。


「電子政府の骨格は決まりつつあり、高田常務を見込んでいるのだが」

 太田晃一に雇われたバイトはいかにも官僚らしくスーツ姿で高田常務と握手して、話を切り出した。


「是非、自分の作る新会社に任せて頂きたい」

 高田常務は目の色を変えて、切望した。


「前向きに検討しますが、資本金が100億円以上は求められるでしょう」

 バイトは希望をもたせて返事をした。


 勿論、高田常務に100億円は用意できない。そこで、上司である赤池社長に融資をもちかけた。


「100億、大きく出たね。その官僚は誰なんだ」

 赤池社長は視線を合わせず、遠くをみた。


「川田という、まだ若い事務官です」

 高田常務は目をギラギラさせて答えた。


「今週の土曜日に君と君の奥方を我が家へ招待しよう。そこで、詳しい話をしよう」

 赤池社長は考え込むように言って、高田常務の肩をポンポンと叩いた。


 太田晃一は社長室から出てくる高田常務に書類を渡した。

「社長の脱税の資料だ。俺を新会社の理事にする約束忘れるなよ」

 太田晃一は高田常務の耳元でささやいた。


「わかっている。君もな」

 高田常務はニヤリと笑った。


 約束の土曜日、高田常務と妻である高田華菜を連れて赤池社長の自宅へ訪問した。

 高田華菜は湖を想像させる瞳と理知的な口元をもつ美人で、白いパンツスーツだった。赤池社長の妻である赤池雅美は高田華菜とは対照的に化粧っけもなくシンプルなベージュのコットンのワンピースで、二人を出迎えた。

 

 太田晃一も社長宅に来ており、ソファで赤池社長と話し込んでいた。

「太田君も来ていたんだね。今日はゆっくり楽しもう」

 高田常務は太田晃一の姿をみかけると肩を叩いた。

 

 ケータリングの豪勢な食事が並べられている中、高田常務は挨拶もそこそこに口火を切った。


「100億円の融資なんですが、承諾してもらえないでしょうか。勿論、利息だけというわけではなく、何倍にもしてお返しします」

「うーん。その話はなぁ。君がいくら優秀でも100億は高すぎるだろう」

 赤池社長は返事を濁した。


「では、この資料をご覧ください」

 高田常務は太田晃一から渡された資料のコピーを赤池社長にみせた。


「これは、私を脅迫するのかね。華菜さん、あなたのご主人はこんなに汚いマネをする。ご主人の躾が行き届いていないのではないかな」

 赤池社長は高田華菜の方をむいて説教するように言った。

 

 高田華菜は無言でそっぽをむいた。

「お前、この態度をみてごらん。お前は高田君の不倫を暴露するのを止めたが、これで、お前も俺が華菜さんに高田君の不倫について暴露するのを止めないよな」

 赤池社長は自分の妻である赤池雅美と視線を合わせると、赤池雅美は承諾するように、目でうなづいた。


「華菜さん、この写真と録音をきいてくれ」

 赤池社長は高田常務と青野真央、黒田課長が映っている写真をみせ、相田陽菜とのやりとりの録音を聞かせた。

「この写真の女性たちは高田君の社内の愛人だ。社内の女の子に高額なプレゼントをして気を引き、愛人にするのが手口だ。私は以前、社内の女の子に手を出すのはやめてくれと言ったんだが、女の子のほうからアプローチされたんだと言い訳していたが、この録音を聞くと、女の子からアプローチしているとは思えないが、どう思われるかな」


 高田華菜は録音と写真をみると、顔色をかえた。

「私は失礼します」

 高田華菜はよろけそうになりながら、立ち上がり、赤池社長宅を出た。

 高田常務は妻を追って、社長宅を出ようとしたが、太田晃一に引き留められた。


「社長の脱税は修正申告してある、告発したければどうぞ」

 高田常務は太田晃一の胸ぐらをつかんだ。


「障害で逮捕されたければ、どうぞ殴ってください。それと、社員に対するセクハラで懲戒処分にします」

 太田晃一は高田常務につかまれた胸ぐらをはねのけて、冷たく言い渡した。


「お前、最初からその気で俺に近づいたんだな」

 高田常務は太田晃一を憎しみに燃えた目でにらみつけた。


「あなたの策略で踏みつけられた女性社員のことを考えたことがあるのか」

 太田晃一は高田常務の頭を人差し指で突いた。


 高田常務は返事はしないで、赤池社長宅を出て、妻を追いかけた。




 

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