第12話 復讐のシナリオ

「ところで、皆に協力してもらいたいことがある」

 太田晃一は真面目な顔になり、今までふみ子におきた事件の経緯を簡単に説明した。でも、裸の写真ということまでは触れずに、高田常務という役員のほうからふみ子にアプローチしたにも関わらず、ふみ子だけが会社を辞めさせられ、アプローチのきっかけはふみ子のアンドロメダの議論帝国であり、そして、ブルーマウスというスパイがチャットルームにいて、ふみ子と皆の動向をウォッチしており、その高田常務は電子政府のコンサルタント会社を立ち上げようとしていると話した。


「ブルーマウスがなぜスパイだとわかったんだ?」

 中川智之が疑問をはさんだ。

 太田晃一はスマホを取り出し、メールの中身とエリーゼカフェの前にいる青野真央の画像と高田常務と腕を組んで歩いている画像を皆にみせた。


「本当にこんな悪党も世の中にはいるんだな」

 畠山由紀はつぶやくように言った。

「わかった、協力する。何をすればいいんだ?」

 中川智之も納得した顔で太田晃一を視線をあわせた。


「このシナリオに沿って、チャットのそれぞれの口調で自然な感じでブルーマウスをこのアンドリュースミスの提言というサイトに誘導してもらいたいんだ」

 太田晃一は印刷したシナリオを皆に渡した。


 そのシナリオというのは、エスパーと大黒天で電子政府のメリットについて語る。そこへスカイスナイパーが電子政府は一部の有力者の国の乗っ取りにつながると警鐘したあとで、エスパーがアンドリュースミスの提言というサイトのリンクを貼る。そのあとで、アンドロメダがカワダって私の幼馴染と同じ名前だとメインボードにタイプする。大黒天がこのサイトは皆に紹介しようとした官僚の立ち上げたサイトで、電子政府にするには巨額の資金が必要でその話を一般人にするのはやめろと上司に釘をさされ、皆とは会えなかったことを残念がっていたと書き込んで、もう一度、リンクを貼るというものだった。


「誘導したあとで、どうするんだ?」

 中川智之がシナリオに目を通した後で太田晃一の方を向いてきいた。

「多分、そのサイトの管理者にメールが来るから、甘いことを言って、その気にさせてから、高田常務を会社から追い出す」

 太田晃一は拳を握り、テーブルをトンと叩いた。


「僕、協力するよ。アンドロメダの仇をとるよ」

 畠山由紀はふみ子の手をやさしく握った。

「ありがとう、でも、そのアンドロメダというのは少し恥ずかしい。チャットとリアルって違うんだね」

 ふみ子は握られた手を引っ込めて、畠山由紀の顔色を窺うように言った。


「じゃぁ、なんて呼べばいい?」

 畠山由紀はふみ子の顔を下からのぞいた。

「学生のときのあだ名はフミタンだった」

 ふみ子は笑顔で答えた。

「フミタンかぁ、かわいいね。僕は忍者が好きだから、僕のことはニンニンって呼んでね」

 畠山由紀は運ばれてきたケーキを大口をあけて食べながら言った。


「お前、ニンニンって。そんなにほおばって食べている姿をみると、少しでもきれいだと思った俺が恥ずかしいよ」

 中川智之が呆れ顔で言うと、畠山由紀はフンを顔をそむけた。


「まぁまぁ、俺のことはコウイチと呼んでくれ、さぁ、ニンニン機嫌をなおせ」

 太田晃一は二人をなだめるように言った。

「じゃぁ、俺はダイジンね」

 中川智之はコーヒーを飲みながら平然と言った。


「ダイジン?大根の間違いないじゃないか」

 畠山由紀はなおも中川智之にかみついた。

「まぁまぁ、落ち着いて」

 ふみ子は畠山由紀の肩をポンポンと叩いた。


「皆、職業は?俺はIT会社で営業をやっている」

 太田晃一は話題をかえた。

「私は失業中」

 ふみ子は小さな声で答えた。

「俺は農家だ。人材募集中」

 中川智之はふみ子へ顔を向けた。

「僕は製造会社でシステム開発をしている」

 畠山由紀はケーキを口を詰め込みながら答えた。


「俺、近い将来、都会にある飲食店と農家をつなげる仲買卸売業のネットワークサービスで起業したいと思っているんだ。実は、この飲食店も俺の起業に賛同してくれる飲食店なんだ。ダイジン、農家やっているなら、俺のところに卸さないか」

 太田晃一は中川智之と視線をあわせた。

「それはありがたい。自前でネット販売するのは簡単じゃないんだ。お金振り込んでくれない人もいるしね」

 中川智之はうなづきながら太田晃一の提案に同意した。


「僕、会社やめてコウイチの会社で働くよ。僕、会社でも家族の中でも孤独なんだ」

 畠山由紀はケーキを食べるのをやめて言った。

「ああ、いいぞ。今度会う時に履歴書と職務経歴書を持ってきてくれ。起業の準備期間もあるから、給料は9月くらいだ」

 太田晃一は畠山由紀の提案を受け入れた。

「OK」

 畠山由紀は人差し指と親指でマルをつくった。


「じゃぁ、私は母と相談して、ダイジンの農家の手伝いをするかどうか決めます。もしよければ、私を雇ってください」

 ふみ子はダイジンと視線を合わせて頼んだ。

「そうだな。2週間後に皆で俺の畑を見に来いよ。俺のところで働いてくれるなら、歓迎だ。見に来てから決めればいい。一週間もたない人もいるしね」

「えっ!いいんですか?」

 ふみ子はまっさきに反応した。


「俺もいいぞ」

 太田晃一も同意した。

「フミタンが行くなら、僕も行く」

 畠山由紀も賛成した。


「俺、アソシエーションを作ろうと思っているんだ」

 中川智之は決意したように、皆を見回した。

「アソシエーション?」

 ふみ子は聞き返した。


「うん。共同体のこと。賃金アップとかって言っているけど、賃金の上昇はリストラあってのものだ。ベーシックインカムは増税になるから、増税をいやがって、企業が海外へ逃げ出してしまうだろう。そこで、共同体で生活に困窮した人たちの支援ができればいいと思っているんだ。切り捨てられた者たちのための共同体。でも、何から始めればいいのかわからないから、チャットで持論を展開していたんだ。皆、どう思う?」



 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る