第11話 スパイは誰?
「どう?」
相田陽菜は車に乗り込み、太田晃一に尋ねた。
「ばっちりだ。送っていくよ。酔ったふりって大変だったろう。」
太田晃一は親指と人差し指で丸を作った。
「うん。女の敵を討ち取るためだ。これくらいはしないとね」
相田陽菜は拳を振り上げた。
太田晃一は相田陽菜を送ってから、自宅に帰り、パソコンをあけた。
ふみ子の「アンドロメダの議論帝国」に入ると、エスパー777、スカイスナイパー、ブルーマウス、アンドロメダがいた。太田晃一は大黒天のアバターなので、ずた袋をふりあげて、皆に挨拶したあとで、アンドロメダのメッセージボックスにささやいた。
「ブルーマウスは今日、ずっと、ここにいた?」
「ブルーマウスは7時半からいたよ」
アンドロメダも大黒天のメッセージボックスにささやいた。
「明日、大事な報告があるから、必ず来てね。俺、財政省に知人がいて紹介したいから」
大黒天は皆にみえるようにメインボードにタイプした。
「私、明日行けるかもしれない。待ち合わせ場所教えてくれる?」
ブルーマウスがメインボードにタイプした。
「メインボードで待ち合わせの場所を書くのは危険だから、俺のメッセージボックスに送信して。メールアドレス教えてあげる」
大黒天はメインボードとブルーマウスのメッセージボックスに送信した。
そして、ブルーマウス以外の人のメッセージボックスには「ブルーマウスはスパイかもしれないから、相手しないで。ブルーマウスから約束の場所を聞かれても、無視してね」と送信した。
ブルーマウスは大黒天のメッセージボックスとアンドロメダのメッセージボックスに待ち合わせ場所と時間をたずねたが、アンドロメダは「大黒天の教えるとおりです」と返信した。
「明日の12時に秋葉原のエリーゼカフェだけど、来る?」
大黒天はブルーマウスのメッセージボックスに返信した。
「うん。行く。私白いパーカーを着ていく」
「じゃぁ、俺は青いポロシャツに青いニット帽をかぶっていく。メールアドレスを教えて。俺はdaikoku_123@hikari.com」
「私はbluemouse_811@gmobile.com急にいけなくなったらメールするね」
ブルーマウスは返信がすむと、別れの挨拶をしてからルームを退出した。
「本当に財政省に知人がいるのか」
スカイスナイパーはメインボードにタイプした。
「それは明日のお楽しみ」
大黒天はメインボードにタイプしてから、別れの挨拶をしてから、ルームを退出した。アンドロメダもルームを閉じることにした。
翌日の12時10分前に青野真央は緑色のカーディガンをはおり、エリーゼカフェにいる青いニット帽の男をみつけ、連れの男たちをスマホで撮影した。
「急におなかが痛くなって行けなくなった。ごめんなさい」
青野真央はエリーゼカフェから離れて、大黒天にメールを送信した。
その様子を白いパーカーのフードをまぶかくかぶり、サングラスをつけた太田晃一は青野真央から見えないように路地裏でみていて、その様子をスマホで撮影した。
着信音が鳴り、スマホを確認すると、案の定、ブルーマウスからだった。
「やっぱり、ブルーマウスは青野さんだったのか」
太田晃一は自分の予測が正しかったと確信した。
太田晃一はネットカフェに立ち寄り、アンドリュースミスの提言というホームページを立ち上げた。電子政府による所得状況の把握により、低所得者に必要な支援を施すことができる。生鮮食品の消費税の廃止と洋服、電子機器、輸入品などのいわゆるぜいたく品の消費税アップにより税収をまかなうという趣旨をホームページに載せた。
そして、連絡先のメールアドレスに実在の財政省事務官の名前を借りた。
ホームページのアップロードを終えて、ふみ子達との待ち合わせ場所である上野へ車で向かった。
喫茶店に到着すると、ふみ子が待っていた。
「元気だった?やっぱり、ブルーマウスは青野さんだったよ」
太田晃一は要件を切り出した。
「では、高田常務はメタチャットにはいなかったんですか?」
ふみ子は頭を上げて、太田晃一の目をみた。
「それはわからない。いたかもしれない。それとね、相田さんに協力してもらって、高田常務の方から女の子を誘っていたという証拠を入手したから、あとはメタチャットの他のメンバーに協力してもらって、電子政府の餌に食いついてもらおう」
太田晃一は優しい視線でふみ子を包んだ。
「電子政府の餌?」
ふみ子は疑問をはさんだ。
「うん。皆が来たら台本を渡すから、高田常務をはめよう」
太田晃一の目が光り、ニヤリと笑った。
ふみ子達のテーブルの前に、黒いシャツに青いネクタイを締めた、キャシャでまつ毛が濃く、月のように深い瞳をもったきれいな顔立ちの人が現れた。
「アンドロメダの議論帝国の人ですか?僕、スカイスナイパーだよ」
ふみ子は男なのか女なのかわからず、のどぼとけをみた。そして、以前メールで体は女だけど心は男だという文面を思い出した。
「宝塚のようだな」
太田晃一も当惑しながらつぶやいた。
「宝塚とは何だよ。じゃがいものような顔して」
スカイスナイパーは太田晃一にかみついた。
ふみ子が二人をなだめていると、白いポロシャツを着た、目元のすずしいさわやかなイケメンが現れた。
「俺、エスパーで中川智之と言います。アンドロメダの議論帝国の人達ですか?」
ふみ子は中川智之のイケメンっぷりに心が騒いだ。
「そうです。私はアンドロメダで鬼谷ふみ子と申します」
ふみ子はまっさきに自己紹介した。
「僕はスカイスナイパーで畠山由紀。よろしく」
「お前があのスカイスナイパーなのか、こんな女みたいな奴だったとは」
中川智之は畠山由紀を指さして言った。
畠山由紀はフンと顔をそむけた。
太田晃一は中川智之にヒソヒソ耳元でささやいた。
エスパーは畠山由紀を上から下まで見回し、咳払いをした。
「俺は大黒天で、太田晃一と申す。よろしくニャン」
太田晃一は笑いをこらえながら茶目っ気たっぷりに自己紹介した。
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